別荘の前に仰向けで倒れている吹雪がいた。
あろうことか周りには血の海が広がっている。
修馬「……うそだろ!吹雪!」
横から吹雪を抱き起こす。
修馬「あああ、吹雪!」
地面には赤いナイフ。
首の動脈が切られた跡。
息をしていない。
脈も止まっている。
……冷たかった。
修馬「う、何で?冗談だろ!ふ、吹雪!」
揺するが、首はだらんと傾くだけ。
ほっぺたを叩くが、虚ろに開く目はどこも見ていない。
修馬「ああ、あああ!吹雪いいい!!」
抱きしめる。
しかしもう温もりは、感じられない。
……間違いなく、死んでいた。
修馬「うああああああ!!」
叫び、泣き崩れる。
修馬「あああ、ううう、吹雪!」
奥歯を潰れるほど噛みしめる。
後悔……身が引きちぎれそうだ。
吹雪と一緒にいると約束したのに、何で眠ってしまったのか!
約束したのに……約束したのに!
また俺は約束を守れなかった!
悔いても悔いきれなかった。
一緒にいればきっと吹雪は殺されずに済んだ筈だ。
そう、吹雪は殺された……
……オーサーに!
……くそ、オーサーは誰だ!
ぶっ殺してやる!
後悔、悲しみ、絶望、そして怒り。
それらの感情を抱きながらも俺は発見する。
吹雪の左手の甲の数字、2を。
修馬「2……」
吹雪は数字を書かれていないと遥輝からの手紙に書いていた筈なのに。
いやいやあんな手紙、今となっては何の信憑性もない。
そしてまた気づく。
吹雪の右腕に赤く何か書いてあることに。
手首の内側から肘の裏側にかけて、横文字でこう書かれていた。
“ヨヨ<リマ”
……何だこれ?
吹雪の手を見る。左手の指には血がついていなかったが、右手の人差し指の先だけ意図的に赤く染まっていることが見つかる。
つまり、吹雪が書いたのか?
俺に何か伝えようとしたのか?
たださっきの手紙と比べて、筆跡が違う気がする。文字として何とか読めるというレベル。
……これはオーサーが書いた?
周囲に注意を払う。
よく見れば、もともと吹雪が仰向けで倒れていた右手辺りの土は、箒で掃かれたような跡が見られる。
……?
何だ何だ?どういう状況なんだ?
待て待て、落ち着け。
簡単な話だ。
これで7から1。全ての数字が出揃った。
数字が書かれていなかったやつがオーサーだ!
7は舞鈴
6は部長
5は心十郎
4は遥輝
3は樹菜
2は吹雪
そして1は拓将
唯一、数字が書かれていないのは……
……俺?
えっ、俺が……オーサー?
修馬「オーサーは……俺?」
声に出る。
そんなバカな。
俺はオーサーじゃない。
しかし気付く。
……もう俺しかいないじゃないか。
もうこの島で生きているのは俺だけなんだから。
俺がみんなを殺してた……?
頭の中に映像が広がる。
誰にも見られていない時。俺は、舞鈴の首を絞め、遥輝を射ち殺し、樹菜のコテージに爆弾を設置する。
眠っていた筈の俺が起き上がり、部長を刺し、拓将を撲殺し、吹雪の首にナイフを添える。
俺はやめろと叫ぶが、俺は殺人をやめない。
つまり俺の心の片隅には常に殺人願望があり、俺は俺の知らないところで殺人をしていたのだ。
何で気付かなかった?
無意識下。
他の人格による犯行。
サークルで話題に上がっていたじゃないか。
そうか……全く考えなかったよ。
俺だったんだ……
修馬「俺がオーサーだったんだ!あははははは!」
全部俺がやった!
カウントダウンは成功したんだ!
……さて、それではいよいよ大団円だ。
オーサーとして俺は最後のシナリオを書かなくてはならない。
吹雪の血で染まるナイフを、震える手で構える。
ひひひ
みんな幽霊になって、俺を待っている。
みんな悪いな。すぐそっちに行くよ!
ひひ、ひはははは!
ザクッ
肉が切れる音と、赤く染まる視界。
俺は、吹雪の横に倒れこんだ。
吹雪……
ごめんな、吹雪
手を握る。
今からそっちにいく
これからもずっと一緒にいよう
そう……約束したもんな。
体の感覚がなくなっていく。
崩れていく俺の世界……
……眠い。
瞼を閉じるとこれまでの出来事が、次々と映る。
舞鈴「私のお父さんが別荘貸してくれるんだから感謝しなさいよね」
文明「俺はこのサークルの責任者だ。こんな時だからこそ、みんなをしっかり導いてやらないといけない」
心十郎「僕達はオーサーの用意した登場人物。オーサーの書いたミステリーの順番に殺されていくのさ」
樹菜「いやだ!私、死にたくない!修馬!助けて!いやああああああ!」
遥輝「ふ、僕はマジシャンだよ。昨日一日使って全員に気づかれないように対応済みさ」
拓将「だまれ!殺される前に殺してやる!」
吹雪「ずっと……ずっと好きだった。
好きだって伝えたかった」
走馬灯か。もはや懐かしかった。
……最期の感覚だった。
俺の目の前に誰か立っている……?
そいつは死にゆく俺のことを見下ろし、口角を吊り上げていく。
……誰だ?
お前……誰だ?
認識出来ない。
ああ、でももうどうでもいいや。
きっと、気のせいだ。
これで、オーサーは……俺はもう、このミステリーにペンを置くんだか……ら……
修馬視点 完
修馬が死亡したちょうどその時、吹雪から貰った時計の針3本が盤の頂上で重なる。
そして……
???「修馬……誕生日おめでとう」
確かにその声は修馬の死体に吐きかけられる。
物語の筆を置くように、新たな死亡者の手の甲に、じわじわと最後の文字が浮かび上がる。
全てを無に帰す、0の文字が……