4日目、夜
ロッジの前
視点、オーサー
木の裏に隠れ、耳を傾ける。
修馬「俺がオーサーだったんだ!あははははは!」
狙い通りの展開に笑いをこらえる。
いいぞ、そう思わせるために眠っていた修馬を殺さなかったんだから。
言うならこれは賭けの終焉。
オーサーとして書いたミステリーが完璧ならば、修馬はそう推理せざるを得ない。
やがて……
ザクッ
肉の切れる音と、共に人の倒れる音がした。
よし……!
木から顔を出し、視線を送る。
修馬が吹雪の隣に倒れていた。
修馬はピクリとも動かない。
静かに歩み寄る。
首を右手で抑える修馬。首付近の地面が新たに赤く染まり始める。
……勝った。
最後の1人の修馬が、死んでくれた。
満足感に広角がつり上がる。
例えるなら、コレクターがシリーズをコンプリートした瞬間の感覚に近いだろう。
吹雪から贈られた腕時計を覗く。
針3本が盤の頂上で重なったタイミングを待ち、呟く。
???「修馬……誕生日おめでとう」
届くか定かではない言葉は、自分の満足感に加えるために吐きかけた。
これで……
あとは……
しゃがみこみ、修馬の左手首を握る。
???「……ん?」
まだ脈がある……?
修馬「おう、サンキューな」
はっと気付くが、遅かった。
修馬の左手が、自分の右手を強く掴み上げる。
???「く……!」
修馬「動くな!」
修馬のもう片方の手にはナイフがあり、こちらに向けられる。
ナイフを握る彼の右手からは血が垂れていた。
何故?首から血が出てた筈……
なのに……
……そうか。なるほど。
修馬「おう、気付いたようだな。
切ったのは手のひらだ。これで首を抑えることで、首を切ったように見せかけたんだが、上手くひっかかってくれたようだな」
……馬鹿だ。
油断した……最後に!
こんな……こんな子供騙しなトリックに。
修馬「悔しそうだな?
死んだフリして奇襲なんて卑怯だとは言わせないぞ?
……お前だってやったことなんだから、な?」
掴まれる右手に力が込められる。
修馬の怒りが伝わってきた。
目線を左下に下げる。
修馬「……やっぱり。
やっぱりお前だったのか。
半信半疑だったが、本当に信じられねぇよ」
……え?気付かれていた?いつから?
驚き、目線を戻してしまう。
修馬「不思議そうだな。
……吹雪が教えてくれたんだよ。
お前がオーサーだってことをな」
修馬が顎で指す先を見る。
何故?……“あれ”は確かに消したのに。
???「……あ!」
吹雪の右手首から肘の裏にかけた血文字が見えた。
しまった!そういうことだったのか!
吹雪……
やっぱりこいつは……こいつを侮ってはいけなかった!
修馬「あれで確信に変わったよ。
お前がオーサーだとな」
???「か、確信……?」
修馬「ああ、俺はさっきあるものを見て、もしかしてお前がオーサーじゃないのかと推理してたんだ」
???「……あるもの?」
修馬「吹雪と、拓将の死体さ」
???「……あの2人の死体で、何故?」
修馬「2人をどうやって殺した?」
何か関係あるのだろう。
……答えるしかないか。
???「刺殺と……撲殺」
自白に近いが、修馬の推理が知りたい気持ちが勝る。
修馬「そうさ。カウントダウンも終盤。最初の被害者舞鈴と違い、あの2人は簡単に殺されてくれなかっただろう。なのに、わざわざ近づいてこの2人を殺した。オーサーには強力な武器が残ってる筈なのに」
強力な武器……そうか、そこから。
修馬「そう、遥輝を殺したボウガンさ!
お前、遥輝の死体から矢を抜いただろう?
つまり、矢と本体はまだお前が持っている。あんなものがオーサー側に残ってるなんて恐怖しか覚えなかったよ。
なのにボウガンを使わずに、わざわざ2人に接近してナイフと鈍器で殺している」
奥歯を噛みしめる。
吹雪だけじゃなかった……
修馬「何故ボウガンを使わなかったのか?様々な凶器を持ち込んだ中でも、あれは大型で飛距離重視の切り札だったんだろ?」
修馬も、侮ってはいけなかった。
修馬「言いたくないなら、言ってやるよ。
お前は使わなかったんじゃない。
使えなかったんだ!」
いざという時はやる人だと、知っていた筈なのに。
修馬「遥輝を殺した時と状況は変わり……
2kg以上もする重量物で狙いを定めることも……
もし外した時に矢を装填し直す作業も……
“片手”では出来ないと判断した。
違うか?……オーサー。いや……」
そういうところに……惹かれた筈なのに。
修馬「……樹菜」
樹菜「………………」
なくした左手と、掴まれた右手。
私は……敗北を受け入れることにした。