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5日目、0時
ロッジの前
視点、修馬

樹菜「……ねぇ」

腕を掴まれたままの樹菜が口を開いてくる。

修馬「何だ?」

樹菜「私のコテージが燃えた時……
あの時は死んだと思ってくれた?」

修馬「ああ、あの時はな。
まんまとやられたよ」

そう、お前が死んだ時の俺の涙に嘘はない。

修馬「コテージの中から声がしてたし、焼け跡から左手のない死体が見つかればお前は死んだと思うよ」

樹菜「……」

修馬「でも、火がついたコテージの中でお前の姿を確認したわけじゃないと思い出した。窓から火が吹き出しててドアは曲がって開かない……いやあれもよく考えたら都合が良すぎる。窓はともかく、ドアには鍵をかけたんだろう?
誰も入って来れないように。

中から聞こえたお前の声も、俺の投げかけた言葉に応じた内容はなかった。
つまりもともと録音していた声を再生して、お前自身は爆発前に窓から逃げていたんだろう?」

樹菜「……」

怒られた子供のように樹菜は下を向いている。

修馬「じゃああの死体は何なのか?
俺は崩れたコテージから、ちゃんと焼死体を見つけている」

樹菜「……」

修馬「樹菜、お前……最低だよ」

樹菜「……」

修馬「あれ……舞鈴の死体だろ?」

樹菜の目線がさらに下がる。
俺は図星だと確信する。

修馬「つまりこういうことだ。
舞鈴の死体をコテージのどこかに隠しておき、あらかじめ左手首を切り落としておいた。こうすれば、同じ小柄な女子の焼死体になってくれる。

そうさ。お前はこのために舞鈴を最初のターゲットに選び、自殺に見せかけた。
全てはまだ連続殺人を認知していない2日目の夜に、舞鈴の死体を自分のコテージに移動させておくために!」

樹菜「……」

修馬「心十郎が見た舞鈴の幽霊ってのは、死体を背負い移動しているお前の姿だったんだろう。あれにはお前も肝を冷やしただろうな。決定的瞬間なんだから。
見たのがヤク中の心十郎じゃなければ、舞鈴の死体を確認しに行ってたかもしれない。

……まあミスもあるだろうよ。
2日目の夜は忙しかっただろう?
舞鈴の死体の移動以外に、部長の殺害と、遥輝の殺害も併せて行っていたんだから。そうだろう?」

樹菜「……はぁ」

そこで樹菜は目を閉じ、溜息をついた。
何かを諦めたように見える。
そして再度開かれた瞳に俺は驚く。

樹菜「そうだよー。大変だったの。
……ねえ、聞きたい?」

しゅんとする子供……という仮面が外れ、妖しい魔女のような瞳が現れていた。

樹菜「部長さ、私が夕飯に睡眠薬入れたことに気付いたのかさ、コテージの中にいなかったの。
あっ、事前にコテージの電話に出ないことを確認したからこそ、殺しに行ったんだけど、まさかいないとは思わなかった。
狙われてるのを察知して、別の場所に隠れたのかなって思ったから探したらさ、コテージの天井裏で眠ってやがったんだ!
多分、初日に物色でもしてて見つけたんだろうけど、天井裏は私が死んだフリする時に舞鈴の死体を保管しとく場所だから、そこで殺すわけにもいかなくて、もともと寝てたようにベッドに戻すの大変だったんだよ」

いつも大人しい女の子が人を殺した話には饒舌になる。
正直、見たくない光景だ。

樹菜「そして遥輝!あいつ紳士ぶってたじゃん?だからこいつもコテージの電話で呼び出した。怖くてたまらないから一緒にいて欲しいって泣きついたら、ノコノコ来てくれたんだ。一応夜道警戒しては歩いてたけど、待ち伏せてボウガンで一撃!
でも死体はまだ見せない方が、犯人っぽくなってくれるかなーって思って、海まで引きずって沈めといた。
……全く!か弱い体で、夜中に3つも死体動かすと疲れるよー。夜もほとんど寝れなかったしね」

樹菜……
それが……お前の本性なのか?

樹菜「あ、舞鈴を最初に殺した理由は、修馬の言った通り。自分の死体のダミーは早目に用意しときたかったから。だけどあの2人をこの夜に殺しておきたかった理由もちゃんとあるんだよ?わかるかな?」

修馬「……部長は俺たちの中で一番賢いから。遥輝は数字を押した本人だから……」

樹菜「正解!すごいね修馬!
……ふふ、でも遥輝には悪いことしちゃったよね」

修馬「何がだ?」

樹菜「あれ?気付いてないかな?
遥輝の押したスタンプなんだけどさ……」

修馬「……ああ」

樹菜「あれ、ただの透明の液体。
実際にみんなの死体に浮き上がった数字とは全く何も関係ないんだよ」

修馬「な!なんだと!」

驚く。

修馬「いや、でも……実際、え?」

樹菜「本当だよ。だから今、修馬の腕を掴んだんだよ。さあ、死んだことだし数字を押そうかってね。

ふふ、数字は全部後出しなんだ。
欲しかったのは偽の認識。
死んだら浮かぶ数字を既に押されている。
自分は何番だ?誰が殺しに来る?
こうなればより焦燥感を煽れるでしょ?

それによく思い出してみなよ。
確かに死ぬと発色する液体は持ち込んでいたけど、実際に発色し始める様子を確認したのってさ……」

合点がいく。そういうことか!

樹菜「私の3と、心十郎の5だけでしょ?」

修馬「……なるほど。舞鈴や部長達は殺した後に数字を押せばいいし、自分の手にはいつだって記せる。そして心十郎は……」

樹菜「うん。トイレで死にかけてたのを見つけた時に、急いで押したの!
いやー全く、私の立場にもなってほしいなー!オーサーは死の順番を指定してるって設定なのに、私の断りもなく勝手に死なないでほしかったよ。
たまたま第一発見者が私だったから何とか対応出来たけど、みんなで一緒に死体を見つけてたら、数字ないじゃん!ってなってたとこだったんだもん!」

こいつ……
掴む手に力が入る。

樹菜「痛いよー修馬。
でもこの不測の事態のせいで、吹雪から疑惑を持たれたんだ」

修馬「吹雪が?何で?」

樹菜「いくら演出やトリックとはいえ、連続殺人の順番を予め刻印をしておくなんてリスクが高すぎる。
舞鈴、部長、心十郎、遥輝、私……
予め決めた割に、順番には何の意味やメッセージ性も見出せない。

……つまり、透明な数字なんて本当はないんじゃないのか?
そうなると、全ての数字を記せたのは私しかいない。これが吹雪の推理だよ。
はぁ……数字はあるって信憑性を上げるための手首切断が逆に仇になってしまったわけ」

なるほど。そんなこと考えもしなかった。
俺なんかより吹雪の方がすごい。

樹菜「でも褒めてくれない?
あの手首切断ショーの段階で、自分のコテージで焼け死ぬまでのストーリーを全て予測していたんだよ?
だからこそ手首を切るに至ったの」

なんだと?
正直、驚愕だった。
本当なら、俺たちはこいつに踊らされてただけということになる。

樹菜「驚いてるね。本当だよ?
まず私は錯乱した演技をし、自分のコテージの近くで手首を落とした。
理由は、応急処置を自分のコテージで行なってもらうため。何故自分のコテージかはもうわかるよね?
そう、設置された爆弾と天井裏のダミー死体があるからです!

でね、問題はこの後!
私は拓将の思考を重点的に予測した。
私が手首を無くしたことにより、もう私は戦力外。昨日アリバイを証明し合う形となった修馬と吹雪両方がオーサーってのが、最悪のストーリーだと拓将は考える。
結果、小さなコテージ内で一緒に夜を過ごせない。
きっとどうせなら遥輝を探しに行くと予想した。
遥輝を探しに行くのなら、吹雪がオーサーだと書かれた手紙を遥輝のコテージで見つけてくれるだろうと考えた。
……あーあとあの手紙ね、本当は遥輝が行方不明になった朝に見つけてほしかったものなんだけど、上手く隠し過ぎてて見つけてくれなかった。失敗したなーって思ったなぁ」

淡々と喋る樹菜を、何も言えず見つめる。

樹菜「そして手紙を見つけ読んだ拓将は、戻って来て吹雪を追求するだろう。しかし病室となった私のコテージではやり辛いので、拓将が吹雪を連れ出し、修馬がそれを追う。もしくは修馬が私を気遣い、拓将と吹雪を連れて外に出るか」

オーサー樹菜……
こいつ……

樹菜「一瞬……そう、一瞬でいい。
一瞬、私をコテージに1人きりにしてくれれば自爆演技なんて簡単だから。
あと自分の手の甲の数字をひとつ先の3にしたのも実は心理トリックなんだよ?
まあこいつは4が出るまで大丈夫だろうっていう小さな油断を誘うためにね」

こんなに賢かったのか。
知らなかったよ。

樹菜「あーでもまさか、遥輝のコテージに明かりが点いたからって修馬が見にいくとは予測しきれなかったなー。
ふふ、修馬あれダメだよ?最低だよ?」

修馬「な、何がだよ?」

樹菜「教えてあげようか?吹雪はあの時既に私に強い不信感を持っていた。
なのに修馬ったら、吹雪の話を聞いてあげもせずに、遥輝のコテージに行くからって、疑惑のある私と2人きりにしようとするんだもん。
そりゃ、天使の吹雪ちゃんもスネるよねー。結局2人で過ごしたけど、吹雪めちゃくちゃ冷たい目で私のことずっと警戒してたんだよ?あはは!」

魔女の笑顔に怒りが爆発しそうになる。
女を殴りたいと思ったことは初めてだ。

樹菜「でも、やっぱり吹雪はすごいよね。ついさっきの話だけど、修馬が寝たことを確認したから、吹雪を殺そうと堂々と現れてやったんだ。すると吹雪、何て言ったと思う?」

修馬「……何て言ったんだ?」

樹菜「やっぱり……って言ったんだよ!
さすがに私死んだら考え改めない?
なのに、ブレずに私を疑い続けていたみたい。
……もしかして、吹雪1人になった時に舞鈴のコテージに行ったのかな?
そして死体がないことを確認しちゃってたのかな?……て、さっきまで考えてた」

吹雪ならありえる。
こいつは天然って言われてるが、頭を使うことが少ないだけで、頭を使わせると結構賢いんだ。そんなことは知っている。
……幼馴染なんだから。

樹菜「ねぇ……」

修馬「……あ?なんだよ?」

樹菜「私、色々話したよ?
修馬もあれ教えてよ」

樹菜は掴まれた右手で吹雪の死体に指をさす。
あれ……だと?
怒りで我を忘れそうになるが堪える。

修馬「……ダイイングメッセージのことか?」

樹菜「うん、ああいうのって犯人である私にはわからないようになってるんじゃないの?あれが何で私になるのかな?」

首をかしげてきやがる。
その首をへし折ってやりたい。

堪える。俺もこいつにまだ聞かなければいけないことがあるからだ。

そして、俺は意を決しダイイングメッセージの意味を口にすることにした。