Count 03

修馬「おい吹雪」

吹雪「なに?」

修馬「ポケットの中身を見せてくれないか?」

吹雪「えっ!……何で?」

上目で見られる。
この反応……やっぱりいつもと違う。

修馬「いいから」

吹雪「だめだよ……まだ」

まだ?何だ、まだって。

修馬「何がまだなんだ?」

吹雪「と、とにかく駄目!」

幼馴染の俺ですら見たことのない拒絶。

やっぱり……本当に……

俺は覚悟を決め、立ち上がる。
そして吹雪に近付き、拓将から没収したバタフライナイフを吹雪に向けた。

吹雪「……しゅ、修馬?」

修馬「なぜ出せない?
……本当にお前がオーサーなのか?」

吹雪「えっ?」

修馬「なあ?どうなんだ?」

吹雪「うそ、ひどいよ修馬……
私達子供の頃からの付き合いでしょ?」

泣きそうな目を向けてくる。

修馬「だまれ!遥輝殺害時のアリバイはトリックなんだろう?」

吹雪「トリック?
……遥輝は4の順番通りに死んだんじゃないって思ってるんだ」

修馬「ああ、いやに話が早いな。
つまりもうお前であろうと信用出来ない」

吹雪「……そんなぁ」

修馬「確かに拓将がオーサーなら全てのつじつまはあう。しかし俺がオーサーならそんなバカなシナリオは書かない!」

吹雪との思い出……

修馬「オーサーは死の順番をあらかじめ決めたりする狡猾な策士なのは間違いないだろう」

何で今、フラッシュバックするんだろう。

修馬「完璧なクロより限りなく近いシロを疑え。俺がお前に誘われて、このミステリー研究サークルに入った時、一番最初に教わったことだ」

あんなに人に優しかったお前に……

修馬「なあ、お前がオーサーなのか?」

一体何があったんだよ……

修馬「吹雪、答えろ」

吹雪「……違うよ。
私はオーサーじゃない」

首を横に振る。涙がキラキラ光る。

修馬「なら、そのポケットの中身を出せ」

吹雪「……」

吹雪は困ったように黙ってしまう。
このままじゃ堂々巡りだ。

修馬「ちっ」

俺は吹雪を突き飛ばし、床に倒した。

吹雪「い、痛い」

修馬「動くな!もし動けば、容赦なく首を切り裂くからな」

吹雪「う、修馬ぁ……」

うるうるした瞳。
もうそんなのに騙されるもんか!

そしてポケットに手を突っ込む!

仮説は整った。
あとは証拠だけ。
ここで起爆スイッチが出てくれば、吹雪がオーサー確定だ。

……幼い頃からの大切な存在、吹雪。

俺は息を飲み、ポケットの中身を引っ張り出した。

吹雪「あ……」

出て来たのは……

修馬「なんだこれは?」

綺麗な包装紙に包まれたブランド時計の箱と、1枚の手紙。

修馬「腕時計?これで起爆したのか?」

そして手紙を乱暴に開く。
そこには吹雪の女の子らしい文字が並んでいた。

“修馬へ
誕生日おめでとう!
修馬と出会って何年経つのかな?
色んな思い出。全部私の宝物です。

修馬は昔から時間にルーズだよね。
本当いつまでたっても治らないので、ちゃんと常に時間を見ようね、ってことで腕時計を選びました。

今年も、これからもずっと一緒にいれたら嬉しいなと思います。
ずっと一緒にいてくれてありがとう修馬!
大好きです。

吹雪より”

修馬「あ?なんだこれ?」

べそをかく吹雪。

修馬「俺にプレゼントしようとしてたのか?」

頷いてくる。

修馬「は?じゃあ何ですぐ出さなかったんだ?」

吹雪「だって……誕生日明日だし、まだ早いから」

修馬「お前バカか!そんなこと言ってる場合じゃないだろ!今は生き死にの問題の最中だぞ!」

吹雪「……私にとっては大事なことだったんだもん」

修馬「……何で?」

吹雪「……」

また吹雪は黙ってしまう。

修馬「おい吹雪。答えろ」

吹雪「……修馬が好きだから」

ポロポロと涙が溢れる。

修馬「えっ」

吹雪「ずっと……ずっと好きだった。
好きだって伝えたかった」

今度は俺が言葉を失う。

吹雪「この旅行で伝えようって決めてた。……舞鈴にもずっと相談乗ってもらってて」

吹雪の涙に心を打たれる。
こいつはこの事件なんて二の次で、ただ俺に想いを伝えたいだけだったのではないのか。

一緒に寝ようと言ってきたことも……
俺が1人で行動する前、少しスネてたことも……
せっかく姿を隠したのに拓将から俺を守ってくれたことも……

全ては俺のことがただ好きだったからだったんだ。

そもそも吹雪は何で俺を疑わない?

吹雪の立場からすれば、オーサーは拓将か俺のどっちかだが何も確証はない筈だ。

なのに俺を全く疑っていない。
何故だ?何故なんだ?

修馬「吹雪……俺がオーサーだと思わなかったのか?」

吹雪「……」

修馬「なあ?」

吹雪「自分のことは信じて、疑わないよね?」

自分のこと?何を当たり前のことを言ってるんだ?

修馬「ああ。それがどうした?」

吹雪「私は、自分を信じてたから」

修馬「だからどういうことだよ!」

吹雪「……私の好きになった人が殺人鬼なわけないって」

修馬「……!」

胸が痛かった。
自分が恥ずかしい。
こんなにも俺のことを想ってくれる子を、信じきれず暴力をふるった。

俺はなんて小さい人間だったんだろう。

修馬「……バカやろ」

グズグズ泣く吹雪。

修馬「お前は、昔から本当に天然でズレたことばっか考えやがって」

吹雪……

修馬「こんなことがあったから、忘れてた」

そうさ、吹雪……

修馬「俺も……俺も、お前のこと好きだったってことを」

実は俺も同じ気持ちだったんだ。

吹雪「えっ」

修馬「ごめんな吹雪」

抱き寄せる。
吹雪の体は潰れてしまいそうなほど小さかった。

吹雪「あ……修馬?」

修馬「ごめん、もう忘れない」

吹雪「う……修馬ぁ」

修馬「好きだ吹雪……
帰ろう。ずっと一緒だ」

吹雪「う、うう、うあああ!修馬ああ!」

子供の頃のように泣きじゃくる吹雪。
しがみつくように俺の背中へ手を伸ばす。
暖かい。

今だけはカウントダウンだか、オーサーだとかはもうどうでもよかった。

……ずっと吹雪とこうしていたかった。