修馬「だめだ死んでる」
拓将「まじかよ」
修馬「殺されたってことはこいつ、オーサーじゃなかったってことか」
波に揺れられる死体の顔を確認する。
修馬「疑って悪かった……遥輝」
浜辺に浮かんでいたのは遥輝の死体だった。
背中から心臓にかけて穴が空いていることが死因。
おそらくはボウガンの矢が刺さっていたのだろう。
拓将「おいおいボウガンって!オーサーは何種類凶器を持ってやがるんだ!」
矢の大きさからして重さ2kgを超える大型タイプで、飛距離も長い。
勉強したことがある。ミステリー研究サークルに入っていてよかったと、この時ばかりは思った。
しかし、こんな見通しのいい浜辺で狙われたらひとたまりもない。一刻も早く身を隠したかったが、俺はどうしてもあれを確認したかった。
そう、遥輝の手の甲だ。
修馬「4か」
遥輝が、4だった。
修馬「海水に浸かっていた影響ではっきりとは断定出来ないが、死後硬直の具合から推測すると殺されたのは1時間内とかじゃない。
つまり少なくとも……」
拓将「少なくとも?」
修馬「確実に樹菜の死よりは前だ。
となると、オーサーはカウントダウンをやめてなんかいなかったということだ」
拓将「ま、まじかよ」
修馬「ああ、俺達が4の遥輝が殺されていたことを知らなかっただけだったんだ」
カウントダウンは続いている……
5の次は3ではなかったんだ。
つまり、これは……
……これは……
俺は誰がオーサーかわかってしまった。
修馬「……た、拓将?」
チラッと拓将に目をやる。
拓将「……」
拓将は返事をしない。
じっと俺を見つめている。
ただ、いつのまにか手にはナイフがあった。
修馬「……」
その様子に俺はハンマーを静かに握る。
拓将「……ふふ、はは。ははは!」
笑ったかと思った拓将の形相が鬼のように切り替わる。
俺は咄嗟に後ろへ飛ぶ!
拓将「死ね!!」
一閃。かすめた頬から血が舞った。
修馬「拓将……!」
大きく伸縮する肺で辛うじて発声する。
修馬「お前が……まさかお前が、オーサーだったとは」
拓将は無表情で立ち尽くす。
そして……
拓将「あはははは!!」
高笑いし始めた。
しかし、それもピタリとすぐやめる。
拓将……まさか、まさかお前が!
修馬・拓将「いい加減、演技はやめろ!!」
……?
声が重なり、驚く。
拓将「うるせえ!いつまでも白々しいんだよ!修馬……いや、オーサー!!」
……俺がオーサー?混乱する。
修馬「な、何がだ!どういう意味だ!」
拓将「だから!遥輝が4で殺されていたなら、オーサーはお前だって言ってるようなもんじゃねぇか!!」
修馬「……は?何言ってんだ!」
拓将「俺は夜に遥輝を探し回った時、ビーチも確認している!その時は、ここに遥輝の死体なんてなかった!つまりその後に遥輝はここで殺されたってことになる!」
修馬「……そ、そうだな」
拓将「なら、心十郎が死んでから常に樹菜とは一緒にいた吹雪には遥輝を殺せないだろうが!」
そうなんだ。樹菜は最期に、吹雪とずっと一緒にいたと証言している。
つまり客観的に見て、吹雪は容疑者から外れたんだ。
それは俺も理解している。
拓将「そうなると遥輝を殺せたのは、あの夜に単独行動をした俺かお前だけだろ!
そして俺はやってないってことは……」
まさか……
拓将「お前しかいねぇじゃねぇか!」
まさか、俺と全く同じ推理を展開してくるとは。
修馬「バカ言え!その推理はお互い様だろ!俺だってやってないから、お前がオーサーじゃねぇか!」
拓将「そんな演技に騙されるか!お、お前じゃなきゃ誰が遥輝を殺せるんだよ!」
確かに……いない!
夜にアリバイがあったのは、樹菜の証言がある吹雪だけ。
夜、自由に動けたのは俺か拓将以外はいない。
やっぱり……こうなる。
くそっ!!
俺も拓将がオーサーになってしまう。
いや、しかし……
しかし何かおかしい!
こいつがオーサーには見えない。
何か見落としてるんじゃないのか?
修馬「拓将とにかく聞け!俺はオーサーじゃねぇ!
俺は部長殺しの時に吹雪と一緒にいたし、樹菜のコテージに爆弾をしかけるのも2人がいたから難しい筈なんだ」
拓将「あーそっか、なるほど。
やっぱり、そうだったのか」
修馬「……え?」
拓将「みんな勝手にオーサーは1人と決めつけていたが、本当に単独犯だったのか?……修馬と吹雪の2人がオーサーなら全てのつじつまが合うんだ!」
修馬「なんだと?」
拓将「いよいよフィナーレってことか!
残りは俺だけだもんな。
だがそうはいくか!
俺を最後に残したことを後悔させてやるぜ」
拓将がナイフを輝かせる。
修馬「や、やめろ!」
後ろに飛び、避ける。
拓将「お前らの思い通りにいくと思うなよ!」
ナイフを無茶苦茶に振り回す拓将。
全身から汗が吹き出る。
修馬「拓将!や、やめろ!やめてくれ!」
拓将「だまれ!殺される前に殺してやる!」
砂浜に足がもつれ、転んでしまう。
修馬「し、しまっ……」
拓将「殺してやるオーサー!うおおお!」
ナイフを高く上げる拓将に対し、目をつむる。
こ、殺される……!
ゴンッ!!
鈍い音が轟いた。
拓将「が……!」
拓将がよろめいた。
バタフライナイフが、手から落ちる。
な、何だ?何が起きた?
拓将「くそ……ふ、吹雪!」
吹雪「はあ、はあ」
拓将の背後には、バットを振り切った吹雪がいた。
修馬「吹雪?」
拓将が殴られた後頭部を抑える。
手のひらが赤く染まった。
拓将「て、てめえ……よくも!!」
拓将が吹雪につかみかかった!
吹雪「うっ!」
拓将「このくそ女!ぶっ殺してやる!」
吹雪の首を締め上げる。
吹雪「あ、うぅ……」
何で吹雪が?
拓将を殺そうとしたのか?
いやどっちかというと、今のは俺を助けに来たように見えたぞ。
拓将「うおおおお!」
ギリギリと嫌な音が鳴る。
吹雪「うぐ……」
でも、このままじゃあ吹雪は拓将にあっさり殺されてしまう。
やっぱり拓将がオーサーなのか?
いや、遥輝の手紙の内容では……
そもそも樹菜を殺しやすかったのは……
でも遥輝を殺せたのは……
混乱する。
オーサー……
どっちだ?
どっちかは絶対オーサーではない筈だ!
拓将か吹雪、どっちを信じればいいんだ?
吹雪「あ、あ……」
吹雪の抵抗が弱くなり、痙攣し始める。
拓将「死ね!!」
ハンマーを構える。心を決めた。
修馬「……くそお!!」
ゴンッ!!
拓将「がっ!」
拓将が砂浜に崩れ落ちる。
俺はハンマーで拓将を殴っていた。
吹雪「ごほっ……げほ」
拓将は気絶した。
そして首を押さえ、座り込む吹雪がゆっくり俺を見上げた。
吹雪「……しゅ、修馬」
修馬「はあ、はあ」
吹雪「……ありがとう」
涙目でお礼を言う吹雪。
それは幼少期から見慣れた光景だった。