夜の闇を照らす赤いコテージ。
修馬「樹菜!」
拓将「おいおい、オーサーは爆弾まで持ってんのかよ!」
修馬「樹菜!おい、大丈夫か?」
扉に叫びながら、ドアノブを乱暴に回す。
開かない!
樹菜「げほ、げほ……修馬?」
修馬「樹菜、無事か?早く鍵をあけろ!」
ノブを振る。
いや違う!鍵はかけていなかった。
まさか、爆発でドアが曲がったのか?
樹菜「ああ、足が……立てない」
修馬「怪我したのか……よし、ドアから離れろよ」
俺はドアを思いっきり蹴る。
2回……3回と。
しかし開きはしない。
樹菜「あ、あつい……修馬!」
修馬「開かない!くそだめか」
拓将「おい、火がどんどんまわってるぞ!早くしねぇと」
そんなことはわかってる!
……そうだ!
修馬「窓だ!」
拓将「そうか、窓だな!」
ドアとは反対側の窓だ。走って回る。
修馬「……うっ、くそ!」
窓からは絶え間なく火が吹き出していた。
拓将「おい、まじかよ!これじゃあ近寄れねえぞ!」
逃げられないように巧妙に爆弾を置かれたようにしか見えない。
くそ!オーサー……!
窓の炎へ叫ぶ。
修馬「樹菜!ちょっと待てよ!今、何とかするからな!」
樹菜「あああ!火が!あつい!あついよおおお!」
もう一度、扉の方へ帰ってくる。
樹菜「うああああ!あつい!あつい!あつい!助けて!」
ドアノブを掴む。
修馬「あっつ!!」
もうこんなに高温に?
中の樹菜はどれほどの熱さなんだよ!
早く助けないと……
樹菜「死にたくない!助けて!修馬!修馬ああああ!」
聞いてられない樹菜の叫び。
もう一度扉を蹴る。
扉の隙間からまで火が漏れてくる。
修馬「樹菜!くっそぉ!」
靴に火の粉が移ってしまう。
拓将「おい、修馬!もう樹菜はダメだ!
下がらないと俺らまで焼けちまう!」
修馬「うるせえ!だまれ!
約束したんだ!守ってやるって!」
樹菜「いやだ!私、死にたくない!修馬!助けて!いやああああああ!」
拓将に羽交い締めにされ、無理やり樹菜から離される。
修馬「離せ!!樹菜あああ!!」
まばゆいコテージはガラガラと崩れ始めた。
その後、炎は長時間に渡り踊り狂った。
やがて火が消えたコテージは、今はもう崩れた黒い積み木のようになっている。
耳を塞ぎたくなるような樹菜の悲痛の叫びは、もうとっくに聞こえなくなっていた。
瓦礫の奥に、真っ黒な死体が埋まっているのを見つけた。
笑顔で手を振る仕草が可愛らしかったあの子は、左手首の外れた黒いマネキンのように見えた。
修馬「……」
“俺が守ってやる。約束だ!”
修馬「……うぅうう」
4人目の死者が出て、初めて泣いた。
約束を……守れなかったからだ。
拓将「おい、修馬」
修馬「ああ……行こう」
だがいつまでも感傷に浸れない。
まだこの惨劇は終わっていないからだ。
……吹雪がいなくなった。
この火事の最中に。