Count 07

夜の闇を照らす赤いコテージ。

修馬「樹菜!」

拓将「おいおい、オーサーは爆弾まで持ってんのかよ!」

修馬「樹菜!おい、大丈夫か?」

扉に叫びながら、ドアノブを乱暴に回す。
開かない!

樹菜「げほ、げほ……修馬?」

修馬「樹菜、無事か?早く鍵をあけろ!」

ノブを振る。
いや違う!鍵はかけていなかった。
まさか、爆発でドアが曲がったのか?

樹菜「ああ、足が……立てない」

修馬「怪我したのか……よし、ドアから離れろよ」

俺はドアを思いっきり蹴る。
2回……3回と。
しかし開きはしない。

樹菜「あ、あつい……修馬!」

修馬「開かない!くそだめか」

拓将「おい、火がどんどんまわってるぞ!早くしねぇと」

そんなことはわかってる!
……そうだ!

修馬「窓だ!」

拓将「そうか、窓だな!」

ドアとは反対側の窓だ。走って回る。

修馬「……うっ、くそ!」

窓からは絶え間なく火が吹き出していた。

拓将「おい、まじかよ!これじゃあ近寄れねえぞ!」

逃げられないように巧妙に爆弾を置かれたようにしか見えない。

くそ!オーサー……!
窓の炎へ叫ぶ。

修馬「樹菜!ちょっと待てよ!今、何とかするからな!」

樹菜「あああ!火が!あつい!あついよおおお!」

もう一度、扉の方へ帰ってくる。

樹菜「うああああ!あつい!あつい!あつい!助けて!」

ドアノブを掴む。

修馬「あっつ!!」

もうこんなに高温に?
中の樹菜はどれほどの熱さなんだよ!
早く助けないと……

樹菜「死にたくない!助けて!修馬!修馬ああああ!」

聞いてられない樹菜の叫び。
もう一度扉を蹴る。
扉の隙間からまで火が漏れてくる。

修馬「樹菜!くっそぉ!」

靴に火の粉が移ってしまう。

拓将「おい、修馬!もう樹菜はダメだ!
下がらないと俺らまで焼けちまう!」

修馬「うるせえ!だまれ!
約束したんだ!守ってやるって!」

樹菜「いやだ!私、死にたくない!修馬!助けて!いやああああああ!」

拓将に羽交い締めにされ、無理やり樹菜から離される。

修馬「離せ!!樹菜あああ!!」

まばゆいコテージはガラガラと崩れ始めた。

その後、炎は長時間に渡り踊り狂った。
やがて火が消えたコテージは、今はもう崩れた黒い積み木のようになっている。
耳を塞ぎたくなるような樹菜の悲痛の叫びは、もうとっくに聞こえなくなっていた。

瓦礫の奥に、真っ黒な死体が埋まっているのを見つけた。

笑顔で手を振る仕草が可愛らしかったあの子は、左手首の外れた黒いマネキンのように見えた。

修馬「……」

“俺が守ってやる。約束だ!”

修馬「……うぅうう」

4人目の死者が出て、初めて泣いた。
約束を……守れなかったからだ。

拓将「おい、修馬」

修馬「ああ……行こう」

だがいつまでも感傷に浸れない。
まだこの惨劇は終わっていないからだ。

……吹雪がいなくなった。

この火事の最中に。