Count 13

心十郎の死体はそのままにし、毛布をかけリビングへ戻った。

拓将「なあ、あいつ薬なんかやってたの知ってた?」

修馬「いや。だがさっき言ってた舞鈴の話は、きっと薬のせいで幻覚でも見たんじゃないか」

拓将「なるほど。だよな」

樹菜「そ、そうだよね……うっ、うぅ」

さっきから樹菜はずっと泣いている。

修馬「大丈夫か樹菜?」

樹菜「うぅ……」

樹菜へ近づく。

修馬「樹菜。大丈夫だから、おちつ……」

樹菜「来ないで!」

樹菜は持っていたかばんからナタのような物を俺に向けた。

吹雪「修馬!」

修馬「な、何だそれ」

カタカタ光るナタと血走る瞳。
かなり驚いた。
大人しい樹菜がこんなものを向けてくるなんて。

樹菜「はぁ……はぁ……」

修馬「じゅ、樹菜……
そんなもんどこから持って来たんだ」

樹菜「そ、倉庫にあった……
みんなが部長のコテージにいる間に見つけた……」

修馬「だ、だからってお前な……」

拓将「いーや……樹菜は正しいぜ」

背後から反論される。

修馬「なんだと?」

振り返ると拓将はバタフライナイフを指で回していた。

拓将「お前、誰がオーサーか考えてるか?遥輝がもしオーサーじゃなかった時、容疑者はこの部屋にいる4人だぞ?……もう誰がオーサーかわからねぇからな」

修馬「拓将……」

吹雪「樹菜……」

樹菜「はぁ……はぁ……」

拓将「修馬、お前はオーサーじゃないとは思ってはいる。
だから悪いことは言わねぇ。お前も吹雪も身を守るもんくらい持ってたほうがいいぞ」

これには俺も同意する他なかった。
なぜなら拓将が言った言葉通りで、拓将か樹菜のどちらかがオーサーの場合、武器を持っていない俺と吹雪は太刀打ち出来ない。だからといってこの2人の武装をやめさせられる論もない。

俺は迷った挙句、自分は工具用ハンマー。吹雪には木製バットを持たせた。
いずれもこの倉庫にあったものだ。

これは抑止力のため。
そう言い聞かせたが、人数が減る度に生き残りには疑惑という亀裂が入る。

この中にオーサーがいる……?

勿論、姿を消した遥輝が一番怪しいとは思っている。しかしこの部屋にいるメンバーもわかったものではない。

壁にもたれ、メンバーにチラチラ視線を送る拓将。

離れた席に座り、肩を抱き震える樹菜。

そして、俺の隣の席に座り、下を向き悲しそうにしている吹雪。

俺は自分以外に生き残っている3人に目を配る。

この中にオーサーがいる?

拓将、樹菜、吹雪。
お前らは一体何を考えて、何を見ているんだ……

窓の外の闇へ目を向ける。

修馬「……夜になったな」

吹雪「ねぇ今日はね。
自室のコテージに帰るのはやめない?
バラバラにならないほうがいいと思うの」

拓将「……そんで?」

吹雪「だ、だって今までの殺人は自室のコテージで起こってるんだから対策しないと」

修馬「ああ。お互いを監視するためにも、みんな一緒にいて交代で睡眠をとる方がいいんじゃないか?」

誰も返事をしない。反対なのか?

拓将「……ふーん。つまり集中力がなくなった深夜、外に潜む遥輝にまとめて殺されようってか?」

修馬「拓将……」

拓将「いや違ったか?今、怪しいのは幽霊だったか?ひとりぼっちは狙われるのか?
ふん!俺はごめんだぜ。お前らだって信用してねえんだ。お前らの前でなんか眠れるかよ」

荷物をまとめる拓将。

修馬「拓将待て!」

樹菜「はぁ、はぁ、はぁ」

吹雪「じゅ、樹菜大丈夫?」

樹菜の呼吸が早くなっている。汗も尋常ではなかった。

修馬「じゅ、樹菜」

樹菜「ゆ、幽霊が来る……夜に私達を殺しに来る……」

心十郎の迷惑な遺言。
樹菜には効いていた。

修馬「樹菜!それは心十郎の妄言だ!幽霊に人は殺せない!」

樹菜「うぅ……何で!何でこんな目に逢わないといけないの!
何で筋書き通りに死ななきゃいけないの?自分の死なんて誰かに決められたくない……」

樹菜がここまで大きな声を出したのは初めてで驚く。

樹菜「ううぅ……自分の死ぬ時は……自分で決めるんだ!」

立ち上がり、手にナタを持ちフラフラと歩き始める。

吹雪「樹菜?」

修馬「おい!どこ行くんだ!」

拓将「なんだなんだ」

樹菜は拓将の脇をすり抜け、ロッジの外へ出た。周囲に嫌な闇が広がっている。

樹菜「こ、こんな数字怖くないもん!」

振り返り、頭をふる樹菜。
かなり錯乱してる。

修馬「樹菜!落ち着け!ロッジの中に戻れ!外には殺人犯がいるかもしれないんだぞ!」

樹菜「……そ、そうはいかないんだから」

ナタを振り上げる。

吹雪「え?樹菜!」

修馬「樹菜!何する気だやめろ!」

樹菜「オ、オーサー見なよ!誰だか知らないけど、あなたの筋書き通りになんかミステリーは進まないんだから!あは、あははは」

樹菜の目がこれ以上なく血走る。

修馬「樹菜!おい、まさか!」

拓将「バカ!やめろ!」

吹雪「樹菜!」

樹菜「あはは、はは」

ナタが振り下ろされる!ザクッと嫌な音が闇に響く。

修馬「おい!何してんだ!!」

拓将「うわああ!」

吹雪「いやあああ」

樹菜「あああ!う、うあああ!」

周囲が赤く染まる。

吹雪「しゅ、修馬!樹菜をとめて!」

吹雪に揺さぶられ、はっとする。

修馬「樹菜!やめろっつってんだろ!」

俺は力任せに樹菜を突き飛ばした。
小柄な体と真っ赤なナタが闇夜に転がる。

樹菜「い、いあああ!」

止めるのが遅かった。
樹菜の手首から血がとめどなく流れ落ちる。

修馬「……なんてことを」

そう、錯乱した樹菜は自分の左手を……
ナタで切り落としていた。

骨と肉の見える断面を見てしまい、目を逸らす。

ああ、俺の手も樹菜の血で真っ赤になってんじゃん。

吹雪「樹菜!大丈夫?ねえ!」

吹雪が樹菜の肩を揺する。

修馬「痛みで気絶してるだけだ。死んではいない。とにかく応急処置だ!ベッドに運ぶぞ。一番近いコテージは誰のコテージだ?」

吹雪「えっと……樹菜だね!」

修馬「樹菜わり。鍵借りるぞ」

背中に血まみれの樹菜を担ぐ。

修馬「おい拓将!運ぶの手伝ってくれ!」

拓将は返事もせず、ある一点を見つめている。

修馬「拓将!」

拓将「修馬、見ろよあれ……」

修馬「なんだよ、こんな時に」

拓将「樹菜の手首」

それはみるみるうちに血色を失っていく。

そして代わりに手の甲に、ある数字が黒く浮かびあがり始めていた。

拓将「……樹菜が死んだら出る筈だった数字じゃねえの?」

そこに浮かんだ数字は……3