3日目、昼
ロッジ
視点、修馬
さっきの心十郎の言葉を思い出す。
修馬「幽霊……か」
拓将「絶対うそだろ。うそじゃなきゃあいつ頭おかしいわ」
吹雪「……舞鈴」
樹菜「……」
その後、会話がなくなる。
今日も時計の音がうるさい日になりそうだ。
修馬「……それにしても遅いな心十郎のやつ」
拓将「1時間くらい経ってねぇか?」
樹菜「あ、あの……」
修馬「どうした樹菜?」
樹菜「私もト、トイレいってくる」
修馬「ああ、気をつけるんだぞ」
樹菜「う、うん」
樹菜の小さな背中を見送る。
この時、既に俺の嫌な予感は始まっていた。
樹菜「い、いやああああ!」
ほどなくして樹菜の悲鳴が時計の音をかき消す。
拓将「な、なんだ?」
吹雪「樹菜の声よ」
修馬「いくぞ二人とも!」
トイレに向かって走る。拓将と吹雪も後ろからついてくる。
トイレの前!
そこには腰を抜かした樹菜がいた。
修馬「樹菜!大丈夫か?」
拓将「どうかしたか?」
震える指先がトイレの中へ向く。
樹菜「し、心十郎くん……が」
指の先には、トイレ内で仰向けに寝て、ガタガタと痙攣している心十郎がいた。
心十郎「うひ!うひひひ!」
修馬「な、なんだこれ」
拓将「お、おい心十郎!どうした?」
心十郎の脇に転がるある物へ目を向ける。
修馬「くっ、これだろう。大量の注射器だ!」
拓将「な、なんだこれ?麻薬か?」
心十郎「あは!あはは!これで僕は!み!見える!」
そこだけ地震でも起きてるかのように心十郎は揺れている。
修馬「心十郎!おい何やってんだ!しっかりしやがれ!」
心十郎「あは!あがが、ぎいいい!ぼ!ぼ!僕は見える!舞鈴!オーサー!」
手足をバタつかせる様が人間とは思えなかった。
樹菜「ひ、ひいい」
心十郎「オーサー!うんうん!そうなん!だ!また夜に!殺すん!だね!舞鈴が!うがががが!」
拓将「おい、修馬!何とかならねぇのか?」
何とか?何とかってなんだよ!
修馬「薬物の多量摂取によるショックだ。俺らにどうしろってんだ!」
拓将「くそっ!」
心十郎「があがは!げげげ!オーサー!オーサー!う、げふっ…」
修馬「心十郎!」
拓将「おい心十郎!」
急に動かなくなった。
俺は心十郎の脈をとる。
修馬「……だめだ、死んだよ」
吹雪「そんな……」
樹菜「あああ」
拓将「……まじか」
修馬「薬なんかに手を出すからだ。バカやろう……」
拓将「幽霊に……幽霊に呪い殺されたのかな?」
拓将が恐れるようにぼやく。
修馬「バカ言うな!これはただの事故死だ!」
拓将「だ、だよな。……すまん」
樹菜「え?
……あ、ああああ!」
樹菜がまた指先を揺らす。
修馬「どうした樹菜?……えっ!」
吹雪「う、うそでしょ」
拓将「おい……もう、どうなってんだよ」
俺達の目の先で、手の甲に段々と浮かびあがるあの文字。
それはしだいに「5」と濃く刻印されていく。
修馬「ば、ばかな!こいつは薬物による事故死なんだぞ……」
拓将「オーサー……これも予言していたってのかよ、初めから」
恐れから。俺は拓将の胸ぐらを掴んでしまう。
修馬「こいつがこのタイミングで勝手に死ぬことをか!舞鈴を殺す前から知ってたってのか!そんなこと無理だ!」
拓将「じゃあなんだってんだ!幽霊が呪い殺して、今書いたってのか!」
叫んだことによりお互い息が荒れる。
修馬「はあ、はあ……わりい」
手を離す。
吹雪「もういや……こんなの」
樹菜「誰か……助けて」
修馬「……とにかく戻るぞ。みんなで力を合わせて生き残るしかない」
そんなことしか言えない自分に嫌悪感が沸く。
ふと見た窓の向こうの森に潜む影に俺はぎょっとする。
しかしそれはガラスに写る自分の姿だった。
本当に幽霊がいるのか?
そして自分達を外から見ているのか?
そんなことありえないことだ。
そう心に思いきかせる。
それでも俺は……この島にいるうちは、窓に写る自分の影をもう見ないと心に決めた。