拓将「ど、どういうことだ!」
修馬「詳しく話してくれないか心十郎?」
心十郎「いいよ。くく」
全員が不安げに心十郎を見つめている。
心十郎「昨日の、何時だったかな?多分夜の2時頃だったよ。あんなことがあったから、僕も寝付けなくてね。
ふと窓から外を眺めたのさ」
修馬「……」
心十郎「すると、夜の闇の中でね。
人影がゆっくり……ゆっくりとどこかへ歩いているのが見えたんだ」
拓将「……だ、誰だったんだ!」
心十郎「まあ、焦るなよ。
僕も初めは暗くて誰かわからなかったんだ。でも気になって窓に張り付き目を凝らしてよーく見てみたんだよ」
吹雪「……」
心十郎「そいつは少し前屈みで、斜め下に手を伸ばした格好で、変わらずゆっくりゆっくり歩いているんだ」
樹菜「……」
心十郎「まるで幽霊だろ?
……その時にちょうどね、月が雲の間から出たみたいでね。
月明かりの中……そいつの横顔がぼんやり見えたのさ」
修馬「だ、誰だったんだよ?」
心十郎は前髪をかきあげ、興奮した目で言い切った。
心十郎「舞鈴さ!!死んだはずの舞鈴が夜中にフラフラと徘徊していたんだよ!」
樹菜「……ええ」
吹雪「ま、舞鈴が?」
拓将「は?う、嘘つくなよ!」
心十郎「本当さ!
きっと1人淋しく死んだ舞鈴は、仲間を増やそうと文明のコテージに行き、寝ている文明の心臓を……グサッと!」
修馬「いい加減にしろ心十郎!」
心十郎「相手が幽霊なら、鍵をかけても簡単に入られるし、返り討ちにすることも不可能さ!なにせもう死んでるんだから!あはははは!」
手のひらをテーブルに思い切り叩きつける。
修馬「笑ってんじゃねぇよ!お前何でみんなを恐怖に陥れるようなことばっかり言うんだ!怖いのはみんな一緒なのに、それを助長するなんてお前どうかしてるぞ!」
拓将「そ、そうだ!何が幽霊だ!いるかそんなもん!」
修馬「それにお前1人だけ妙に落ち着いてるというか、どこかこの状況を楽しんでいるようにさえ見える。
……まさかお前が舞鈴と部長を」
樹菜「え……」
吹雪「……」
距離をとる2人の女子。
それに対し不敵に笑い始める。
心十郎「ふふふ、信じてくれないなら、それでもいいさ。愚かな君達には見えないのかもしれないし」
背中を見せる心十郎。
修馬「お、おい、どこ行くんだ?」
心十郎「トイレさトイレ。くくく」
3日目、昼
ロッジのトイレ
視点、心十郎
トイレの鏡につぶやく。
心十郎「みんな驚いてたな。
僕の言動一言一言に聞き入って。
くくく、あはは」
笑っていて気がつかなかったが、手がかなり震えていた。
禁断症状か……
ポケットから出した注射器を腕に刺す。
心十郎「ああぁ……」
気持ちいい。
やっぱりこれがないとね。
学校、同級生、女子、親、兄弟。昔は何もかもが怖くて、自分の部屋から出られなかった。
そんな引きこもりだった僕に勇気をくれたこの薬。
これがある僕は殺されることはない。
他のバカな連中とはステータスが違うからさ。
昨日の夜もこれを使った後に、幽霊である舞鈴が見えたんだから。
これがなかったら僕は霊体である舞鈴は決して見えなかっただろう。
……危ないところだった。
もっとだ。もっと感覚を研ぎ澄ますために、もっともっと薬を打たないとだめだ。
心十郎「ひひ、きゃははは!」
ポケットからさらに複数の注射器を出す。
いいぞ。いいぞオーサー!
こんな興奮するミステリー初めてだよ。
もっと殺してしまえ!
もっともっと殺せオーサー!
心十郎「あははは!あひひひひ!」
心十郎視点 完