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2日目、朝
修馬のコテージ
視点、修馬

吹雪「修馬起きて!修馬!」

叩かれるドアの音に焦り、身を起こす。

修馬「……うーん、すまん吹雪。また寝坊か俺」

吹雪「それどころじゃないの舞鈴が!」

修馬「……?」

舞鈴のコテージの着く。
そこで俺は衝撃的なものを見る。

拓将「はあ?うそだろ!」

遥輝「ば、ばかな」

樹菜「い、いやあああ」

心十郎「……」

俺の目に飛び込んで来たのは、不自然に部屋の中央で直立する舞鈴。

それは、初めて見る本物の首吊りだった。

文明「と、とにかく降ろすんだ」

部長の言葉にはっとなり、みんなで舞鈴の小さな体を床に下ろす。
パニック状態だった俺は、あることに気づく。

修馬「おい、これなんだ?」

舞鈴の左手の甲に”7”と書いていた。

拓将「数字の7か?」

遥輝「……ん?あ!!」

遥輝がはっとした顔となる。

文明「なんだ遥輝?これが何かわかるのか?」

遥輝「……い、いや……」

明らかに様子が変わった。

文明「とにかく一度、ロッジの方へいこう。女の子2人をいつまでもここに留まらせる意味もない」

吹雪「……う、うん」

まだ現実を飲み込めていない吹雪。

樹菜「うぅ……グス」

ずっと泣いてばかりいる樹菜。
俺は同意する。

修馬「そうだな、別荘へ戻ろう」

心十郎「……ふ、ふふふ」

修馬「落ちついたか?2人とも」

飲み物を注いでやる。

樹菜「う、うん」

吹雪「……ありがと」

拓将「はー、楽しい旅行がまさかこんなことになるとはなー」

そろそろ聞きたいことを伺うか。

修馬「第一発見者は誰なんだ?」

吹雪「あ、私だよ」

修馬「どうして、朝に舞鈴のコテージに行ったんだ?」

吹雪「……舞鈴昨日から電話に出なくて」

電話?コテージのか。

文明「夜に電話したのか?」

吹雪「う、うん。ちょっとね」

何故か歯切れが悪い。眉を寄せる。

吹雪「あ!でも電話した時、舞鈴誰か来たって言ってた」

修馬「誰かって?」

吹雪「それはわからないけど、電話の時は普通だったよ」

拓将「おーい誰だ?行ったやつなら様子がおかしかったとか見てんじゃねえの」

沈黙。誰も手を挙げない。

拓将「……へ?何で名乗り出ないんだ?」

心十郎「……ふふふ、あはは!」

ここで心十郎が急に笑い始めた。
朝、舞鈴の死体を見つけた時からにやにやしてて不気味だったことを思い出す。

修馬「なあ、何笑ってんだ?心十郎」

心十郎「いえいえ、なぜミステリーサークルにいるのかわからないほど頭の悪い拓将くんはともかく、ミステリー研究サークルのみなさんが本気でアレを自殺と思っているのかな、と思ってね」

拓将「あ?誰がアホだこら!」

文明「……」

樹菜「え?え?」

修馬「何が言いたい?」

心十郎「見ましたか?
足ですよ足。背伸びしたようにつま先が床に接していたでしょう?自殺する人間って長時間苦しむ方法を選ぶのでしょうかね?」

真木心十郎。こいつ……

心十郎「首吊りに見せかけたという発想の方が自然ではありませんか?」

こいつの態度は気にいらないが……

心十郎「それだけじゃない。彼女の体にも謎が残っている。
そう、彼女の手の甲の7という数字。あれはどう説明するんですか?」

言ってることは紛れもない正論だ。
俺は何も言い返せず、下を向く。

文明「そうだな。あの数字。
あの数字については遥輝、君が何か知ってるんじゃないか?」

遥輝「……僕が?」

遥輝が顔を上げる。

拓将「部長ー、何で遥輝が知ってんの?」

文明「さっきあの数字を見た時の反応が遥輝だけおかしかったんだ。何かを思い出したような様子に見えた。
何か知っているんだろ?」

俺も見ていた。内心頷く。

拓将「おい遥輝!お前何隠してやがる!
ぶん殴るぞ!」

遥輝「い、いや、隠したわけじゃない。
わかった、言おう」

文明「あれは何なんだ?」

遥輝「あ、あれは俺が押したスタンプだ」

修馬「は?スタンプ?」

拓将「はあ?何?」

文明「どういうことだ?」

遥輝「まあ聞いてくれ。昨日船に乗った時に、俺のかばんに手紙とスタンプが入ってたんだ!
手紙には、これを使い誰にも気づかれず部員の左手の甲にスタンプを押せと。
マジシャンの僕なら簡単だろうと」

修馬「どうして?」

遥輝「どうやら並べると”誕生日おめでとう”となるらしく、修馬の誕生日のサプライズにしたいと書いてあった」

拓将「へ?実際書いてた文字は”7”じゃねえか」

遥輝「そうだ。だから驚いた。
舞鈴には”め”と記されたスタンプを押したはずだからな」

心十郎「ふーん、そんなの押した時に違う文字だと気付かなかったの?」

遥輝「ああ、色が透明だから気付かなかった」

透明?透明のスタンプだと?

修馬「なんだそりゃ。じゃあ何の意味があるんだ?」

樹菜「もしかして遊園地とかで再入場に使われてるもの?ほ、ほら。通常は見えないけど、特殊な状況を作ると見えるスタンプだったのかな?」

なるほど。あれか。あれなら見えなかったと言われても納得出来るし、サプライズにならちゃうどいい。
……しかし……

文明「昨日にはもう押していたんだろ?それが今日視覚化したなら特殊な状況の詳細が気になるな」

心十郎「ふふふ、例えば死んだらとか?」

樹菜「ひっ」

修馬「おい、やめろ心十郎!適当なことを言うな!」

心十郎「ん?そんなに適当かな?
皮膚の細胞が死滅すると発色するなんて液体があってもおかしくないと思うけどね」

言い返せない。

遥輝「詳細はわからないが、僕が受け取った手紙には全員の手の甲にスタンプを押せというものだった」

全員、という言葉に驚いた。

文明「……全員だと?」

拓将「え、舞鈴だけじゃないのか?」

遥輝「あ、ああ」

修馬「いつ押したんだ?」

遥輝「ふ、僕はマジシャンだよ。昨日一日使って全員に気づかれないように対応済みさ」

拓将「え、それ俺にもか?」

遥輝「だから全員にだ」

文明「俺達にも7のスタンプを押したのか?」

遥輝「いや、全員別のスタンプを使った。手紙に指定されていたんだ。舞鈴は”め”。吹雪は”誕”とか全員別だ。
まあそれもスタンプの頭に明記されていた文字と、押印側の面が違うのであればわからないものだがな」

文明「なら、手紙とスタンプは?」

遥輝「ん?」

文明「その話が本当なら、その手紙とスタンプを持っているんだろう?
見せてくれないか?
こんな状況だ。申し訳ないが、遥輝を少し疑っている」

疑う。つまりそれは……
俺は脳裏に察する。

遥輝「いや……すまないが、作業が終わったらロッジの倉庫に入れておけと指示されていたんで、昨日のうちに倉庫へ返してしまった。手紙も一緒にな。
先程、気になり倉庫へ行くとなくなっていたんだ」

心十郎「何それ……ねえ、本当かい?」

遥輝「う、嘘ではない!
こんな嘘つくメリットないだろう!」

拓将「あーとりあえず気味わりい。
俺手洗ってくるわ」

遥輝「どうやら特殊な洗浄液を使わないと数日は残るとも書いてあった」

拓将「はあ?何だそりゃ!くそ!」

文明「……よし、わかった。遥輝お前を信じよう。ただし」

遥輝「ただし?」

文明「その手紙は誰宛からだったか教えてくれ」

遥輝「……」

文明「それくらい言えるのでは?」

拓将「おい、答えろや!」

遥輝「……オーサー」

修馬「オーサー?」

遥輝「ああ、オーサーからと書いてあった」

オーサー……作者という意味だ。

誰だ?そいつは。

文明「とにかく、死人が出たんだ。もう遊びたい奴はいないだろう。携帯の電波は届かないから、別荘の電話で助けを呼ぼう」

樹菜「そ、それが……」

文明「どうした?」

樹菜「あ、朝から電話がどれも繋がらないの」

拓将「はあ?じゃああと4日この島にいないとダメなのか!」

心十郎「くくく、いよいよ面白くなってきたじゃないか」

修馬「……」

文明「……そうか。なら、これからはなるべくみんな一緒に行動しよう。外に俺達以外の殺人犯が潜んでいる可能性も忘れるな」

心十郎「僕達以外の可能性……ね。ふふふ。
なら、可能性として僕達の中に舞鈴を殺した犯人がいることも考えないとね」

心十郎の言葉に、みんな水を打ったように静まりかえった。

修馬「……俺達の中に?」

樹菜「……」

文明「……」

拓将「……舞鈴を自殺に見せかけて?」

遥輝「……」

吹雪「……」

心十郎「……うん、殺した人がいるかもしれないじゃん」

7人全員が視線を泳がせ、表情を探り合った。
みんな薄々思っていたことだった。

遥輝「……」

2日目、昼
ロッジ
視点、遥輝

僕は、昔から人を脅せるイタズラや裏をかく行動が好きだった。

テレビでマジシャンを初めて見た時に、天職だと感じた気持ちは今でも忘れていない。

人の心理の虚をつき、人から拍手を受ける存在。
ミステリーもそういう面で似ていることから好きなため、このサークルに入った。
だが自分の中で1番やりたいことはマジシャンだった。

憧れた。
憧れ、そして真似た。

現状、僕のスキルはプロクラスにひけをとらない自信だってある。
だからこそ昨日、気付かれずメンバー全員にスタンプを押すことが出来たんだ。
きっと最終日の修馬の誕生パーティーでみんなは驚き、自分に拍手する。
それを楽しみにやったのに。

……なのに、何だこれは?

みんなからのこの不信の目は何なんだ?

マジックの種を探る不信の目とはまた違う。
冷たく、じとっとした視線。

違う。
こんなの僕の憧れたマジシャンに対する目じゃない。

……だからこそ押したスタンプの数字はみんなに教えなかった。
……本当はスタンプの頭の明示と、スタンプ側が違うことに気付いていた。

舞鈴に7を与えたことも覚えていたし、他の者達の数字もある程度覚えている。

きっとこれはのちに自分だけの有利な情報となるだろう。
だからこそこいつらには教えない。

その目をやめない限り絶対教えてやるもんか。

……絶対にな。

遥輝視点 完