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2日目、夜
ロッジ
視点、修馬

結局、俺たちは1日中ロッジにいた。
今はみんなで吹雪の手伝いをして作った夕食の片付けをしている。

修馬「こんな時も晩飯ありがとな吹雪」

吹雪「うん、でもみんなが手伝ってくれたから楽だったよ」

修馬「昨日そう決めたからな……舞鈴が……」

吹雪「……うん」

嫌な空気を作ってしまった。
吹雪は舞鈴と仲がよかったから尚更辛いだろう。

ふと疑問が生まれる。
昔は些細なことにも泣いていた吹雪だ。
そう言えばなぜ今回は泣かないのだろうか?

心十郎「……ふう、すっきりした」

リビングに戻って来た心十郎。

拓将「おい、お前どこ行ってたんだ?」

心十郎「ふふ、トイレだよトイレ」

樹菜「……消えたかな」

真っ赤な左手の甲をタオルでゴシゴシとこする樹菜。
今日1日中見ていた光景だ。

修馬「樹菜、いくら擦ってもとれないと思うぞ」

樹菜「で、でもなんか事件に関係してそうで怖くて」

拓将「はーシャレになんないぜ。誰かさんがこんなスタンプ押しやがっからなー」

遥輝「……」

文明「もう夜だな。今日は1日こうしていたが、それでもみんな気疲れがあっただろう。もう寝るとするか」

拓将「さんせー!ずっと一緒にじっとしてるのも気が滅入ったわ」

文明「あと夜のうちは外には出ないように。鍵を閉めて、誰か訪ねて来ても簡単に開けてはダメだ」

心十郎「そうだよー?知ってる人が来ても気をつけるんだよー?あはは」

言い方が癪に触るが、内容には同意だ。

文明「では、また明日9時にここロッジに集合だ」

拓将「りょーかーい。おやすみー」

そう言い、拓将はロッジを後にする。
それをみんな追う。

心十郎「ふふ。じゃあみんな、いい夜をね」

樹菜「……眠れるかな」

遥輝「怖いなら一緒にいてやろうかい?レディ」

樹菜「……ごめん。いい」

遥輝「……信用を落としてしまったかな」

心十郎、樹菜、遥輝も自分のコテージへ。

文明「鍵を忘れるなよみんな!……ふう」

修馬「おつかれ部長。疲れてるな」

文明「修馬……いや少し眠いだけさ。心配させたかい?」

修馬「今日はゆっくり寝よう。
……あと部長はみんなに気を遣い過ぎだ。こんな時くらい部長らしくしなくてもいいんだぜ」

文明「ありがとう。でも俺はこのサークルの責任者だ。こんな時だからこそ、みんなをしっかり導いてやらないといけない」

修馬「部長はどんな時も部長だな。確かにそうだけど、たまには俺らを頼ってくれてもいいからな」

肩をポンと叩いてみる。

文明「そうだな。ありがとう」

それに対して部長は、嬉しそうにだが何か悩んでいるような表情を見せた。

文明「……なあ修馬」

修馬「ああ」

舞鈴の死についてだろう。

文明「……いや、やっぱりいい。今日はもう遅いし、眠気も限界だ。明日ちゃんと話すよ」

修馬「そうか。おやすみ部長。また明日」

文明「ああ、おやすみ」

部長もロッジを後にする。
何を伝えようとしたのか?

吹雪「……ねえ修馬」

背後から声をかけられる。
吹雪、まだいたのか。

修馬「なんだよ」

照れ臭そうに下を見る吹雪。

吹雪「あ、あのね……」

俺もコテージに戻ってきた。

修馬「……じゃあ電気消すぞ」

吹雪「う、うん」

ベッドの上の吹雪が掛け布団を掴みながら返事する。

修馬「いいのか本当に?」

吹雪「え?」

修馬「お、同じベッドでさ」

吹雪「……い、いいよ。
でも、何もしないでね」

修馬「するか、あほ」

吹雪「ふふ、小さい頃はよく一緒の布団で寝たのにね」

修馬「……いつの話だ」

吹雪「うーん、何歳だっけなー
修馬覚えてる?」

修馬「もういいから、消すぞ?」

吹雪「うん」

部屋が暗闇に落ちる。

修馬「じゃ、おやすみ」

吹雪「おやすみなさい」

俺もベッドに移る。
狭いシングルベッドでは、吹雪と肩が当たる。

俺はなるべく気にしないように吹雪に背中を向けてみた。

あれ?これでいいんだよな?
何もしないでって言ってたし。
今、触れてしまうと鼓動が早いのがバレてしまいそうだし。

そう、俺は気にしない。
全く、何も、全然気にしてなんかいない。

吹雪「……修馬」

肩をぎゅっと掴まれる。
それにビクッとしてしまう。

修馬「な、な、な、なんだよ?」

出来る限りだるそうに言おうとしたが、無理だったか。

吹雪「……」

あれ?返事がない?

吹雪「……うっう」

肩に力がかかる。

修馬「……吹雪?」

吹雪「……舞鈴、死んだんだね」

……そうだよな。我慢してたんだよな。

修馬「……ああ、そうだな」

吹雪「私……舞鈴にいろいろお礼言いたかった」

修馬「……そうだな」

吹雪「……ねえ修馬」

ゆっくりと向き直す。
肩が当たる。

修馬「どうした?」

吹雪「もう……もう何も起きないよね?」

涙目の吹雪に俺は優しく答えてやる。

修馬「大丈夫。心配するな」

2日目、夜
文明のコテージ
視点、文明

まだ何も終わっちゃいない……
むしろこれは始まりではないのか?

ベッドの上、後頭部で手を組む。

俺はミステリーが大好きだ。
幼い頃から父の書斎のミステリーを勝手に読み漁っていた。

幼い頃から読んでいたおかげで、ミステリーの謎を解く行為にかけては、このサークルでも右に出る者はいないだろう。

……そんな俺の推理は、みんなの前では言えないものだった。

舞鈴の死体を思い出す。
舞鈴の首には爪で引っ掻いてた跡があった。
自殺する人間の心理はわからないが、俺には意図せぬ絞殺の跡にしか見えなかった。

そして一番ゾッとしたことは、舞鈴の衣服や部屋に争ったあとがなかったこと。
これは外部犯の可能性を否定していると言っていい。

俺はやっぱり考えてしまっている。

俺達の中の誰かの仕業……

正誤はともかく、このことをみんなの前で言わなくて正解だった。

言えば、混乱を招き、疑心暗鬼に陥ってしまっていただろう。

そして気になるのはあの数字……

遥輝が受け取った謎の手紙の指示。

詳しい差出人は不明のまま。
確かなことは船の中で受け取ったということは、部員の誰かが入れたことになる。
また内部犯。

遥輝はみんなにスタンプを押したと言った。
それはつまり、また誰かが死に、数字が浮かぶ可能性があるということ。

意図がはっきりわからんが、狙いは撹乱だろう。
疑心暗鬼になれば、犯人の思う壺。
バラバラになれば犯人は必ずそこをついてくる。

だからこそ今日は何事もなく1日を終えられた。

明日もこの状態を貫くべきだな。

自分はこのサークルの部長だ。
みんなを安全に導いてやる必要がある。

そもそも俺達の中に殺人犯がいるなんてのは、ひねくれた考えなのかもしれない。

ミステリーの読み過ぎなのか……

……

意識が落ちかける。

眠い……おかしい。
いくらなんでも眠過ぎる。

もしや、俺はオーサーに狙われているのか?
だとしたら、まずい。

重い体を立ち上がらせる。
頭を抱えて、トイレへ向かう。

文明「……よっと」

木の天井を外し、屋根裏へ這い上がった。

文明「……ここなら安全だろう」

木の天井を戻しながら呟く。

実はこのコテージには屋根裏がある。
昨日、コテージ内を物色してた際にたまたま見つけたものだ。
唯一知ってそうな舞鈴が死に、このことは誰にも話さなかった。これは俺の自衛の切り札。

文明「ここなら……大丈夫だろう」

殺人犯が俺を狙っても、見つけられない……はず……だ……

意識が途切れ途切れになる。

……

……あれ?

電話が鳴ってるような音が、どこか遠い世界から聞こえてきた。

俺のコテージの電話が……
鳴ってる……のか……?
……だめだ。もう動け……ない……

……。

文明視点 完

2日目、夜
遥輝のコテージ
視点、遥輝

俺はコテージ電話の受話器を置く。

遥輝「ふふふ」

さあ、行くか。

コテージの扉を開き、俺は夜の闇に歩を進めた。

遥輝「……くくく」

遥輝視点 完