3日目、夜
樹菜のコテージ
視点、樹菜
初めの一回目から特に大きな理由なんてなかった。
学校もしくはプライベートで少し……
ほんの少し、心を病むようなことがあれば、夜に自分の手首をカッターでなぞる。
浮き出る小さな傷痕。
数滴の赤い血。
これを見ると不思議と少し元気が出た。
性格は大人しく過度な人見知りだと思っていたが、私は鬱病なんだとお医者さんに言われてしまう。
ああ、そう。
なら自分なんていつでも死ねばいい。
死ぬ時は、いつか自分が決めよう……
そう思っていた。
でも……
近づく本物の死のカウントダウン。
これに私は心の底から恐怖してしまった。
この旅行の前の話。
半ば諦めてるお医者さんと会った後、重い足取りでミステリー研究サークルの集まりへ向かう。
部室に入ろうとした時のこと。
吹雪「プレゼント、本当にこれでいいかな?」
舞鈴「あーいいじゃない!
修馬こういう小洒落たの好きそうだし、幼なじみのあんたが選んだんだから間違いないって」
吹雪「う、うん」
何の話?
気配を殺す。
何故か話を盗み聞いてみたくなる。
舞鈴「自信持ちなって。修馬もあんたのこと、多少なりとも好意を持っているからさ」
吹雪「ほ、ほんと?」
舞鈴「うん、そのうえ旅行の雰囲気で気持ちを伝えればまず成功するって」
吹雪「……ちゃんと言えるかな」
舞鈴「最悪、頭真っ白になってもいいように紙に書いときなさい。がんばんなよ吹雪!私がついてるし大丈夫」
ああ、そうか……
吹雪が修馬のこと好きなのは知ってはいたけど、ついに告白するんだ。
私は脚を反転させ、1人になれるところへ。
そしていつも一応持ってるカッターで左手首を血が出るほどなぞる。
ああ……
どうしてだろ?
何で吹雪が修馬に告白するって知ったら、嫌な気持ちになったんだろ?
大好きな友達だし応援するべきなのに。
“樹菜、どうした?体調悪いんじゃないか?”
修馬の優しい声が頭に蘇る。
まさか私……
私ももしかして……
樹菜「ん……」
ゆっくり目を開く。
何で急にあの時の夢を見たんだろ……
ぼんやりと写る天井。
……ここはどこだっけ?
私何してたんだっけ?
そこへ吹雪が顔を覗き込んできた。
吹雪「樹菜……目は覚めた?」
吹雪……何で?
……あ、そっか。
全て夢だったような錯覚がした。
左手から登ってくる尋常じゃない痛みで、現実に引き戻される。
そうだった……
私もう左手、ないんだ……
リストカットの延長のような感覚で左手を切り落としてしまった。
一瞬涙がこぼれそうになる。
そして鮮明に思い出す仲間の死に様。
大人しい私はみんなを後ろから見てるだけ。みんななかなか気付いてくれないだろうが、私はこのサークルのみんなが本当に大好きなんだ。
なのに、何で……
死へのカウントダウン。どれほど呪ったことだろうか。
私はただ、みんなとずっと一緒にいたかっただけなのに……
結局、涙はこぼれてしまう。
吹雪「修馬、樹菜気がついたよ」
修馬「そうか……樹菜大丈夫か?」
急いで涙を拭う。
吹雪に並び、覗き込んでくる修馬
修馬……
こんな状況なのに、その顔に少し鼓動が高鳴った。
修馬……
気づいてないよね?
……私もあなたが好きなんだよ。
樹菜視点 完
3日目、夜
樹菜のコテージ
視点、修馬
修馬「手……痛まないか?」
樹菜「痛いけど……大丈夫だよ」
修馬「悪いな。こんな状況だからちゃんとした治療は出来ていない。手を尽くしてくれた吹雪にお礼言わないとな」
樹菜「吹雪……ありがと」
吹雪「ううん……熱も少しあるみたいだし、ゆっくり休むべきかな」
樹菜「うん……」
樹菜は、不安そうに何かを考えているように見える。
修馬「どうした樹菜?」
樹菜「私の手……私の手首」
そうだよな。そこが気になるよな。
樹菜「あの……何か数字は書かれてた?」
言うべきか迷う。吹雪と目が合い、正直に言うべきだと判断し、口を開く。
修馬「……ああ、数字が出たよ。3ってな」
樹菜「さ、3……
じゃあ次の次は私ってこと?」
修馬「ああ……まあただ次の4ではなくてよかったな」
下らない気休めを言ってしまう。
案の定、樹菜は震え始めた。
修馬「だ、大丈夫だ樹菜!」
樹菜「……な、何が?」
修馬「変な言い方だが、逆に言うと4が見えるまでは安全ってことだ。
それにもし樹菜の番になったとしても、今回はオーサーが狙ってくることがわかってるんだ。殺させやしないよ」
樹菜「……ほんと?」
修馬「ああ、俺が守ってやる。約束だ!」
樹菜「……あ、ありがと。嬉しい」
何故か笑顔のまま泣く樹菜。
問題は解決してないのに、今の俺の言葉がそんなに嬉しかったのか?
3日目、夜
樹菜のコテージの外
視点、???
樹菜「……あ、ありがと。嬉しい」
気付かれないようにこっそりと……
コテージの中の修馬、吹雪、樹菜の会話を盗み聞く。
???「……なるほど」
3人には聞こえないように小さく舌打ちをした。