修馬「はぁ、はぁ」
どこから、オーサーなる者が狙っているかわからない。
暗い夜道を慎重に進む。
汗ばむ右手にはハンマー。武器はこれだけだ。
道の脇には幾重にも並んだ木が不気味に揺れている。
月明かりの下に見えるビーチは真っ黒だ。
初日に8人で楽しく遊んだビーチとは到底思えなかった。
修馬「……さて、ついた」
遥輝のコテージ。
依然、明かりは点いていた。
まだ明かりを点けた者はいるのか?
修馬「ん?」
どうやらドアには鍵がかかっていることがわかる。
朝、遥輝失踪時にはこのコテージは空いていたらしい。
つまり開いていた鍵をかけた者がいるということ。
……そう、今この中に。
修馬「……ふう」
一息入れ緊張をほぐし、窓の前に立った。
修馬「せーの!」
ハンマーで窓を叩き割った!
ものすごく派手な音。島中に響いたんじゃないだろうか。
窓を開き、中を確認する。
修馬「おい!遥輝!いるのか?」
拓将「だ、誰だ!!」
中には、こちらにナイフを向ける拓将がいた。
修馬「な、何だ拓将か……
よかった無事だったんだな」
拓将「……」
拓将はポケットにさっと何かを隠した。
修馬「拓将?今、何を」
拓将「近寄るな!」
修馬「……拓将?」
拓将「こ、この島は狂ってる!」
拓将はガタガタと震えている。
修馬「どうした拓将?あのあと何があったんだ?」
拓将「……まさか本当だったとは」
修馬「拓将?どうしたんだ!遥輝はいたのか?」
拓将「ああ?遥輝なんていなかったよ。しかもそれだけじゃない」
それだけじゃない?
何だ、それだけじゃないって?
動転してる拓将に俺も焦り始める。
拓将「一体何が起きてるんだこの島で」
頭を抱えて、震え続ける。
修馬「だから何があったんだよ!拓将!」
拓将「そ、そうだ!吹雪はいるか?」
修馬「吹雪?ああ、ずっと樹菜のコテージだ」
拓将「そうか……」
拓将の目が急に鋭く変わる。
そして遥輝のコテージから飛び出し、走り始める。
修馬「おい、拓将!何があったのか説明しろよ!」
拓将「わかったんだ!オーサーの正体が」
走りながら振り返る拓将。その言葉に驚いた。
修馬「なに!とにかく待て拓将!」
追いかける。
拓将の向かった先は、樹菜のコテージだった。
拓将「はぁ、はぁ……
おい!ここを開けろ吹雪!」
乱暴に扉を叩く拓将。
修馬「拓将!」
拓将「早く開けろ!」
中から音が聞こえない。
え?おい、大丈夫だよな?
修馬「吹雪!樹菜!大丈夫か?」
吹雪「……修馬?」
吹雪の声がこもって聞こえた。
安堵の息を吐く。
修馬「吹雪!確認してきた。
遥輝のコテージにいたのは拓将だった。
とりあえず開けてくれ」
吹雪「わかった。開けるね」
中に入る。そこには……
樹菜「修馬!」
ベッドの樹菜。
はあ、よかった。
修馬「2人とも無事だったか」
吹雪「うん、拓将も無事でよかった」
拓将「おい吹雪、お前今ポケットに何か隠しただろ?」
吹雪「えっ?」
ポケットに手を入れている吹雪。
おいおい、こっちもか。
拓将「出せ」
吹雪「えっ、な、何で?」
拓将「出せこら!」
吹雪に歩み寄る拓将。
吹雪「……や、やめて」
修馬「こら!いい加減にしろ拓将!
お前さっきからおかしいぞ!」
拓将はピタリと動きを止める。
修馬「それにお前だって、さっきポケットに何か隠しただろ!……さっきから聞いてんだろが!一体何があったんだ?」
拓将「はっ!じゃあ見せてやるよ!ほら!」
拓将のポケットからは手紙のような紙が1枚出てきた。
修馬「何だこれ?」
拓将「これは遥輝のコテージに隠してあった手紙だ!読んでみろ」
何?遥輝の手紙だと?
俺は全員に聞こえるように読み上げる。
修馬「……遥輝より。
これを読んでいるあんたが、この事件の犯人じゃないことを祈る。
俺は確かにみんなの手の甲に、それぞれ数字を刻印した。
多分今後、舞鈴以外にもまた誰か殺されていくんじゃないだろうか?俺はそう思っている。
その時に、真っ先に犯人と疑われるのはみんなに数字を押した俺だ。
オーサーにハメられた。
俺は舞鈴を殺してなんかいない。
信じてほしい。
俺は一度姿を隠す。
数字を押した俺は怪しくもあり、オーサーに狙われやすい位置なんだ。わかってほしい。
そして俺は俺で、こんな目に遭わせたオーサーを追い詰める。
だがもし俺を信じてくれるなら、俺がオーサーと推理している者が誰か伝えよう。
信じるか信じないかはお前ら次第だ。
舞鈴の死体を見つけた日、俺は全員に数字を押したと言ったが実はあれは正確には違う。
使ったスタンプは実は7つだ。
俺は自分にもスタンプを押したから、8人いる俺達の中に1人だけスタンプを押すことを指示されなかったやつがいる。
カウントダウンの対象外。
そいつが犯人の目星。
そいつの正体は、夜桜吹雪なんだ!
俺は吹雪の手の甲には何もしていないんだ。
これだけは本当に信じてほしい。