修馬「お前は……!」
樹菜「……ん?」
ナイフを強く握る。
修馬「お前みたいな人間のバグは……」
樹菜「……え?」
修馬「生きてちゃ、駄目だ!!」
刃を樹菜に向け、そのままタックルする。
ズブッと、ナイフが肉を進んだ感覚が両手に確かに伝わった。
樹菜「……あ、うあ」
樹菜が吐血する。俺の肩が赤く染まる。
樹菜がゆっくりと倒れていく。
ナイフが腹部から抜けた時、おびただしい返り血を被る。
修馬「はぁ、はぁ、はぁ」
血まみれで伏す樹菜を、荒い息のまま見下ろす。
真っ赤な自分の全身に恐怖で震えた。
殺した……
いや、いいんだこれで。
新しい犠牲者を出さないためなんだ。
これで吹雪への、みんなへの仇はうった!
樹菜「……う、ごふっ」
まだ血を吐く樹菜。
生きてる……まだ。
樹菜「うぐ……生きてちゃ、駄目……か。
辛い……こと言われたな……
ううう、うううう」
そう漏らし樹菜が泣き始めた。
俺はそこではっと思い出した。
修馬「じゅ、樹菜!」
抱き上げる。
お前は……お前は本当は……
修馬「お前、本当に自分の作品を認めてほしかっただけなのか?
それだけのために仲間を全員殺したのか?」
そうさ、趣味の近い仲間を全員殺してしまったら、誰がお前の作品を評価するんだ!
やはり、何かおかしい。
修馬「お前の、本当の動機は何だ!!」
笑顔で手を振る姿が可愛らしかったお前……
俺はあれが演技には思えない。
自己主張は少なかったが、お前は誰よりもみんなを愛してた筈だ。
なのに、何故?
樹菜「あ……う」
まばたきをすることも苦しそうな樹菜。
樹菜「……しゅ、修馬。
……修馬はさ……仲間の誰からも気付いてもらえなかったことって……ある?」
修馬「え……?」
樹菜「じ、自分なんかいなくても、誰も気にしないんじゃないかって思ったこと……ある?」
樹菜はボロボロと涙を落とす。
何だ?何だ?何が言いたいんだ?
樹菜「ひ、1人だけ仲間外れになることって……怖く感じないの?
……うう、うう」
樹菜は本気で泣いている。
その目は魔女の瞳ではない。
いつもの大人しい樹菜の瞳に戻っていた。
何だよ……?
どっちが本当のお前なんだ……?
樹菜「でも……修馬に殺されるなら……別にいいやって……思ってて……」
瞳がどんどん虚ろになっていく。
修馬「な、何がだ!全然わかんねえぞ!
動機を言ってくれよ!
それに何で俺にならいいんだよ!樹菜!」
問う。これが彼女の最期の言葉になるだろうと、両腕から感じ取れた。
樹菜「しゅ、修馬が……す」
震える唇で必死に伝えようとする。
しかし……
樹菜「……ううん……な、何でも……な……い……
ごめ……んね……」
首を横に振ったかと思うと……
樹菜は……
修馬「樹菜!おい!樹菜!!」
動かなくなった。
修馬「おい、おい!」
揺するが、もう二度と目は開かない。
不思議なほど安らかな死に顔だった。
島の木がバサバサと風に揺れる。
今度こそ本当に俺はこの島に1人となった。
ただ俺は……
生き残った……
オーサーを倒して……
俺だけが生き残った……
しかし、この事件が何故起きたのか。
樹菜が何を考えて事件を起こしたのかについては、わからない。
大人しくも優しかった樹菜が、狂った殺人鬼とはやはり思えない。
彼女に何があったのか?
何が彼女をそうさせたのか?
俺は結局わからないままだった。
エンディングカウント 1
「記されなかった動機」