5日目、零時過ぎ
ロッジ
視点、樹菜
舞鈴「ハッピ、バ〜スデ〜
ディア〜……修馬〜!」
舞鈴が主で歌う祝いの歌。
修馬の顔が赤くなっており、可愛かった。
全員「お誕生日おめでとう!!」
クラッカーと同時に、修馬がロウソクの火を消し去る。
部屋が真っ暗になった。
舞鈴「はーい!ってことで、この旅行はあなたの誕生日を祝うものでしたー!
みんなに感謝しなさいよね修馬!」
自分のことのように嬉しそうな舞鈴。
細かく拍手していた。
修馬「ああ、みんなありがとう!」
文明「ふむ、おめでとう修馬。
部長として、君の成長を心より嬉しく思うよ」
部長はどこか誇らし気に修馬と握手する。
ふふ、大袈裟だなぁ。
修馬「ロリコンとしては、女の子の成長は心から悲しんでそうなのにな?」
文明「き、君は俺をいじり過ぎだぞ!」
みんなが笑う。私も笑ってしまう。
遥輝「おめでとう修馬。美しいよ。
しかし、このオーサーなるものの手紙は何だったのだろうか?
僕はきっちりとマジックを仕込んだというのに何も起こりはしない。どういうことなのだろう」
あ、やば。遥輝覚えてたか、やっぱり。
とりあえず、心の中でお礼は言っておく。
拓将「あーあー、遥輝うっせーな!
そんな手紙どうだっていいよもう!
手紙なんかに踊らされてるお前がわりいわ!
それよか修馬!薔薇の花やるよ、もう。
結局、この5日間俺には何もなかったぞ!誕生日おめでとう、このモテ男が!」
拓将はモテてそうな人をひがまなきゃ、それなりにモテると思うのになぁ。
修馬「わかったわかった!
んじゃあ貰うわ。
おーい、心十郎もさんきゅーな!」
心十郎「……そうだね。めでたいね修馬。
今年こそは面白いミステリーに出会えるといいさ。出来れば現実でね」
修馬「何、怖いこと言ってんだお前は!」
心十郎はいつもズレてるけど、不器用にミステリーが好きなだけだと知っている。
私の未遂のミステリーは面白いと思ってくれていたのかな?
舞鈴「はいはい!もういいから!
さてじゃあ次は、吹雪から修馬への個人プレゼントがあるみたいよ」
いよいよ、だね。
拓将「あ?ふざけんなー!薔薇返せ!」
文明「その吹雪はどこにいるんだい?」
舞鈴「ふふ、ロッジの外よ」
窓から外を見ると、吹雪がもじもじと赤い顔で修馬を待っていた。
手には小洒落た小箱と手紙を大切そうに持っていた。
可愛いな吹雪。
やっぱりお似合いだよね。
心十郎「あれ?これって……」
遥輝「なるほど。くくく。
さあ、修馬!レディを待たせてはいけないよ。早く行ってあげたまえ」
修馬「……え?まじで?」
修馬の顔も赤くなっている。
修馬が席を立ち、外へ行こうとする。
そのタイミングで私は立ち上がる。
樹菜「あ!待って!」
修馬「……ん?」
制止させた。
舞鈴「あら?どうしたの?樹菜」
樹菜「あ、うん……私もちゃんと言いたくて」
修馬の前へ歩み寄る。
修馬の優しい目。その様子に少し鼓動が高鳴った。
修馬「な、何だよ」
怪訝そうな修馬。
樹菜「……」
私は目線を下げたり上げたりしてるだけで、なかなか切り出せない。
何でこんなに恥ずかしいんだろう。
夜の海でのことがあって依頼、私は修馬と目を合わせられなくなっていた。
修馬「……樹菜?」
でも、言わなきゃ!
私は意を決して大きく息を吸う。
樹菜「修馬……誕生日おめでとう!」
大きな声で言えた。
そして……
樹菜「あの……す……」
修馬「……す?」
みんなが静かにしてるのがわかる。
特に舞鈴……不安そう。
……安心して。大丈夫だから。
樹菜「うん……す、素敵な1年にしてね!
約束だよ!」
笑顔で左手を差し出した。
そうだよね。
“それ”を伝えるのは私じゃない。
そんなこと、ちゃんとわかってるよ。
修馬「……ああ!約束だ!
いい1年にするよ!」
修馬の大きな手が私の手を包んでくれる。
それだけで幸せだった。
そして、修馬の顔がそっと私の耳に近づく。
修馬「……お前もだぞ。
一緒に、そうしような」
……。
何故か顔が赤くなってしまった私。
でも……
でも、それがとても幸せだった。
樹菜「……うん。ありがと」
拓将「おいおい、なんだよー!
他の女の子に手ぇ出してねぇで、早くいけよこの女たらしが!」
舞鈴「そーよ!吹雪待ってるじゃない!」
修馬「うるせー!わかってるよ」
握る手を離し、吹雪のところへ向かっていく修馬。
あとでまたな、と私に向け口が動いた。
私は小さく頷く。
樹菜「………………」
修馬、ありがとう。
私、やっぱりオーサーになんかならなくてよかったよ。
もし私がオーサーになっちゃってた場合、きっと今みたいな幸せな気持ちになんかなれていなかったと思うから。
……いずれ来る死は、やっぱりまだ怖い。
でもみんなだって怖い筈。
だから私に出来ることは……
みんなが怖くないように先に行って待っていること。
それまでは……
みんなと一緒に過ごして……
みんなと一緒に笑って……
みんなと一緒に、少しでも生きていたい。
自分の人生の終わりが見えていることや、見えていないこと……
その人生が人より長いか、短いかってことも。
そんなこと関係ない。
きっといつか来る最期は……
周りが泣いてくれている中、自分は笑っているような……
そんな人生で終えることが大切なんじゃないか。
今は、そう思う。
文明「お、2人で何か話し始めたな」
心十郎「状況的に見て、告白の言葉でしょうか。吹雪の持っている手紙は、前もって計画された文章の可能性が高い」
舞鈴「あんた……そんなことまで推理しなくていいから」
拓将「くそー!リア充殺されねぇかな」
遥輝「なんて美しくないことを言うんだ君は」
窓に張り付くみんな。
私はいつものように一歩後ろで見守る。
樹菜「………………」
誰にも聞こえない声で私も呟いてみた。
樹菜「………………」
窓の外。
修馬と吹雪が照れ臭そうに握手した。
みんなが喜びの声を漏らしている。
“修馬……気づいてないよね?
……私もあなたが好きなんだよ”
そう……
私のこの気持ちだけは、どんな状況であろうと……
迷宮入りに、させて下さい。
エンディングカウント 8
「true end ボツ作品」