誕生パーティー

 

5日目、零時過ぎ
ロッジ
視点、樹菜

舞鈴「ハッピ、バ〜スデ〜
ディア〜……修馬〜!」

舞鈴が主で歌う祝いの歌。
修馬の顔が赤くなっており、可愛かった。

全員「お誕生日おめでとう!!」

クラッカーと同時に、修馬がロウソクの火を消し去る。
部屋が真っ暗になった。

舞鈴「はーい!ってことで、この旅行はあなたの誕生日を祝うものでしたー!
みんなに感謝しなさいよね修馬!」

自分のことのように嬉しそうな舞鈴。
細かく拍手していた。

修馬「ああ、みんなありがとう!」

文明「ふむ、おめでとう修馬。
部長として、君の成長を心より嬉しく思うよ」

部長はどこか誇らし気に修馬と握手する。
ふふ、大袈裟だなぁ。

修馬「ロリコンとしては、女の子の成長は心から悲しんでそうなのにな?」

文明「き、君は俺をいじり過ぎだぞ!」

みんなが笑う。私も笑ってしまう。

遥輝「おめでとう修馬。美しいよ。
しかし、このオーサーなるものの手紙は何だったのだろうか?
僕はきっちりとマジックを仕込んだというのに何も起こりはしない。どういうことなのだろう」

あ、やば。遥輝覚えてたか、やっぱり。
とりあえず、心の中でお礼は言っておく。

拓将「あーあー、遥輝うっせーな!
そんな手紙どうだっていいよもう!
手紙なんかに踊らされてるお前がわりいわ!
それよか修馬!薔薇の花やるよ、もう。
結局、この5日間俺には何もなかったぞ!誕生日おめでとう、このモテ男が!」

拓将はモテてそうな人をひがまなきゃ、それなりにモテると思うのになぁ。

修馬「わかったわかった!
んじゃあ貰うわ。
おーい、心十郎もさんきゅーな!」

心十郎「……そうだね。めでたいね修馬。
今年こそは面白いミステリーに出会えるといいさ。出来れば現実でね」

修馬「何、怖いこと言ってんだお前は!」

心十郎はいつもズレてるけど、不器用にミステリーが好きなだけだと知っている。
私の未遂のミステリーは面白いと思ってくれていたのかな?

舞鈴「はいはい!もういいから!
さてじゃあ次は、吹雪から修馬への個人プレゼントがあるみたいよ」

いよいよ、だね。

拓将「あ?ふざけんなー!薔薇返せ!」

文明「その吹雪はどこにいるんだい?」

舞鈴「ふふ、ロッジの外よ」

窓から外を見ると、吹雪がもじもじと赤い顔で修馬を待っていた。
手には小洒落た小箱と手紙を大切そうに持っていた。

可愛いな吹雪。
やっぱりお似合いだよね。

心十郎「あれ?これって……」

遥輝「なるほど。くくく。
さあ、修馬!レディを待たせてはいけないよ。早く行ってあげたまえ」

修馬「……え?まじで?」

修馬の顔も赤くなっている。
修馬が席を立ち、外へ行こうとする。

そのタイミングで私は立ち上がる。

樹菜「あ!待って!」

修馬「……ん?」

制止させた。

舞鈴「あら?どうしたの?樹菜」

樹菜「あ、うん……私もちゃんと言いたくて」

修馬の前へ歩み寄る。
修馬の優しい目。その様子に少し鼓動が高鳴った。

修馬「な、何だよ」

怪訝そうな修馬。

樹菜「……」

私は目線を下げたり上げたりしてるだけで、なかなか切り出せない。
何でこんなに恥ずかしいんだろう。
夜の海でのことがあって依頼、私は修馬と目を合わせられなくなっていた。

修馬「……樹菜?」

でも、言わなきゃ!
私は意を決して大きく息を吸う。

樹菜「修馬……誕生日おめでとう!」

大きな声で言えた。

そして……

樹菜「あの……す……」

修馬「……す?」

みんなが静かにしてるのがわかる。
特に舞鈴……不安そう。

……安心して。大丈夫だから。

樹菜「うん……す、素敵な1年にしてね!
約束だよ!」

笑顔で左手を差し出した。

そうだよね。
“それ”を伝えるのは私じゃない。
そんなこと、ちゃんとわかってるよ。

修馬「……ああ!約束だ!
いい1年にするよ!」

修馬の大きな手が私の手を包んでくれる。
それだけで幸せだった。

そして、修馬の顔がそっと私の耳に近づく。

修馬「……お前もだぞ。
一緒に、そうしような」

……。
何故か顔が赤くなってしまった私。

でも……
でも、それがとても幸せだった。

樹菜「……うん。ありがと」

拓将「おいおい、なんだよー!
他の女の子に手ぇ出してねぇで、早くいけよこの女たらしが!」

舞鈴「そーよ!吹雪待ってるじゃない!」

修馬「うるせー!わかってるよ」

握る手を離し、吹雪のところへ向かっていく修馬。
あとでまたな、と私に向け口が動いた。

私は小さく頷く。

樹菜「………………」

修馬、ありがとう。
私、やっぱりオーサーになんかならなくてよかったよ。
もし私がオーサーになっちゃってた場合、きっと今みたいな幸せな気持ちになんかなれていなかったと思うから。

……いずれ来る死は、やっぱりまだ怖い。
でもみんなだって怖い筈。

だから私に出来ることは……

みんなが怖くないように先に行って待っていること。

それまでは……
みんなと一緒に過ごして……
みんなと一緒に笑って……
みんなと一緒に、少しでも生きていたい。

自分の人生の終わりが見えていることや、見えていないこと……
その人生が人より長いか、短いかってことも。
そんなこと関係ない。

きっといつか来る最期は……
周りが泣いてくれている中、自分は笑っているような……

そんな人生で終えることが大切なんじゃないか。
今は、そう思う。

文明「お、2人で何か話し始めたな」

心十郎「状況的に見て、告白の言葉でしょうか。吹雪の持っている手紙は、前もって計画された文章の可能性が高い」

舞鈴「あんた……そんなことまで推理しなくていいから」

拓将「くそー!リア充殺されねぇかな」

遥輝「なんて美しくないことを言うんだ君は」

窓に張り付くみんな。
私はいつものように一歩後ろで見守る。

樹菜「………………」

誰にも聞こえない声で私も呟いてみた。

樹菜「………………」

窓の外。
修馬と吹雪が照れ臭そうに握手した。

みんなが喜びの声を漏らしている。

“修馬……気づいてないよね?
……私もあなたが好きなんだよ”

そう……

私のこの気持ちだけは、どんな状況であろうと……

迷宮入りに、させて下さい。

エンディングカウント 8
「true end ボツ作品」

初日の夜に、海を見に行くと選択すると……

 

俺は夜の浜辺を歩いてみる。

落ち着いた波の音、潮の匂いのする夜風が心地よかった。

ちょうど、月が雲の間から出たみたいだ。
月明かりの中、黒い海がキラキラ光る。
とても幻想的な景色だった。

樹菜「……綺麗」

修馬「そうだな、綺麗だな」

樹菜「え?」

修馬「え?」

思わず同意してしまった後に、ひどく驚いた。

樹菜「……あ、修馬?」

修馬「おーびっくりした。何だ樹菜か」

樹菜がまじまじした表情のまま硬直していた。

修馬「何してんだよ?こんなとこで」

樹菜「え?あ……
な、何て言うか……決意表明と言うか……」

修馬「決意表明?何のだよ?
あー!そういや樹菜、静かな海を見てみたいって言ってたな」

樹菜「あ……う、うん!
静かな海、好きだよ」

修馬「おう、俺も好きだよ。
……ん?何持ってんの?それ」

樹菜の手にはロープが握られていた。

樹菜「あ、あー……え、えっと。
これは……ですね。その……」

修馬「何だ、誰か絞殺前だったのか?

……ぷっ!あはは!ごめん、冗談だ!
隣、座っていいか?
せっかくだし、少し話そうや」

樹菜「え、あ……うん」

俺と樹菜は、砂浜に座る。
服に砂がついてしまった。
だが少しくらいなら我慢出来る。
ゆっくりしたい気分が勝った。

樹菜「あー……どうしよ。
ロープ見られちゃったし……
私、修馬はやれないし……
これ、詰んじゃったんじゃ……」

頭を抱えた樹菜が何か独りでボソボソ言っている。

修馬「ん?何か言った?」

樹菜「い……いや、何でもないよ」

修馬「いやーそれにしてもこんな綺麗な島に来れるなんて、ミステリー研究サークルに入ってよかったわ俺」

樹菜「……うん、そうだね。
私も入ってよかったと思ってるよ。
みんは大好きだし」

修馬「なっ!いい奴ばっかだよな」

樹菜「……うん」

樹菜の返事にはどこか含みがあった。
沈黙が訪れる。
波の音が定期的に耳をくすぐった。

修馬「どうかしたか?樹菜」

樹菜「……ねえ、修馬」

修馬「ん?どうした?」

樹菜「このサークルがね、なくなっちゃったりして……
ひとりぼっちになるのって怖いと思う?」

何だその質問?
首を動かすと、樹菜の横顔は真剣だった。
戸惑いはしたが、俺もそれに応じることにした。

修馬「……そうだな。
考えたこともなかったけど、そりゃ怖いな……」

樹菜「怖い……よね」

樹菜は目線を下げた。
その横顔には、不安が見えた。

修馬「……なんだよ。
やめちまうのかサークル?
樹菜……いなくなるのかよ?」

樹菜はこの言葉に、呼吸をやめる。

やがて……
樹菜も首を動かし、俺と目が合った。

樹菜「……うん」

その目は……
とても綺麗で……
とても澄んでいて……

修馬「……」

とても、悲しそうだった。

修馬「……そうなのか」

俺は言葉を失う。
やはり何か様子がおかしい。
いつもの樹菜ではない。

何が悲しいんだ、樹菜。

修馬「何があったんだ……?」

出来る限り、優しく言った。

樹菜の悲しそうな目は、ゆっくり夜の波へ戻る。

樹菜「あのね、修馬。
私、あと1年の命なの……」

冷たい風が俺と樹菜の間を抜けた。
木々がバサバサと揺れている。

修馬「本当……なのか?」

落ち着いた言葉で返せた。
嘘は言ってないことは理解出来た。

樹菜「……うん。半年前くらいかな。
なんか体調が変だなーって思ってて、かかりつけのお医者さんに相談したら、総合病院に連れて行かれて色々検査されて……」

修馬「……うん」

樹菜「いきなり言われたよ。
長くはないだろうって。
もう少し早ければ、何とかなったかもって話もされたっけな。

……すごくびっくりした。
何で私なんだろうって、何回も、何回も考えたり……」

修馬「……そうか」

樹菜「死へのカウントダウンをどれほど呪ったかもう覚えてないなぁ」

死への、カウントダウンか。

樹菜「もともと私鬱病でね。
みんなには理解されないようなことでも死にたいって思うほど悩んじゃったりしてたんだ……
だから生きてるのって辛かった……
いつか死ぬ時は自分で決めようって思ってたのに……

ふふ、おかしいよね?
自分の命が残り少ないとわかったら、死ぬことに心の底から恐怖を感じたんだ」

樹菜の目には涙。
俺はじっと話を聞く。

樹菜「何で怖いと思ったかわかるかな?
あのね、私ね……
このサークル以外で友達なんかいないの。
誰も私のことなんか理解してくれないし、ずっと誰からも必要とされなかった。

なのに、ここのサークルのみんなは私を認めてくれた。
私の書いたミステリーを面白いって言ってくれた。
みんな、私と友達になってくれた……

ううう……ううっくう」

樹菜はひたすら、目をこすっている。

樹菜「……大人しい私はみんなを後ろから見てるだけのことが多かった……

だけど……
だけど、みんななかなか気付いてくれないけど……

私はこのサークルのみんなが本当に大好きだったの!」

俺は黙って聞く。
いや、何も言えなかった。

樹菜「私はただ、みんなとずっと一緒にいたかっただけなのに……
なのに私だけ……
人生が余ってるみんなが羨ましかった……

死ぬことが怖いんじゃない!
自分だけみんなと離れることが怖かった。
またひとりぼっちに戻るのが怖かった……

どんなことよりも……」

俺は態勢を変えた。
服につく砂なんて関係なかった。

修馬「樹菜、おいで」

俺は、両手を樹菜に向ける。

樹菜「え?……何?」

不思議そうな樹菜。
涙で顔はぐちゃぐちゃだった。

修馬「もう、いいから」

俺は樹菜を胸の中へ引き寄せた。

樹菜「あ……しゅ、修馬?」

そして力を込める。

修馬「わかったから。辛かったよな。
1人で抱えてたんだよな。
でも、お前は1人じゃない」

樹菜「……うう」

修馬「これから……
ちゃんと俺がついてるから」

樹菜「うあああああああああああ!!」

樹菜の両手が俺の背中を掴む。

樹菜「あああ……ああああああああ」

樹菜の涙を肩で感じる。暖かかった。

修馬「大丈夫か?」

樹菜「うん、ありがと……」

少し落ち着いた腕の中の樹菜。
声が全身に響く。
こんなとこ吹雪に見られたら……とか考えてしまったが、とても大切なことだと思い、続けた。

修馬「……なあ」

樹菜「うん……?」

修馬「治らねえんだよな?」

樹菜「……うん」

修馬「……そうか」

樹菜「みんなには、言わないでくれる?」

修馬「何で?」

樹菜「私、楽しそうなみんなが好きだから……
最期まで楽しそうなみんなと一緒にいたいんだ」

修馬「そう……か。
……わかった」

樹菜「ありがとう」

修馬「ならさ」

樹菜「……うん」

修馬「大切にしよう。残りの時間」

樹菜「……大切……?」

修馬「そんでその先はさ」

樹菜「その先……?」

修馬「ああ。
その先で……待っててくれよ」

樹菜「……」

修馬「いつかは俺もそっちに行くだろうから」

樹菜「……」

修馬「へへ、また待っててくれかって思った?
いつも遅刻してばっかで申し訳ねえや。
でもその時はさ……」

樹菜「……」

修馬「また一緒に、夜の海でも見ねえ?」

樹菜の腕に力がこもる。
その腕は、少しだけ……

樹菜「……うん。
……見る。
……待ってるよ」

嬉しそうに、震えていた。

樹菜「ありがとう、修馬。
……私、大切に生きるよ。
みんなと……」

俺は樹菜を……
たくさんの何かを救えた気がした。

渡す、を選択

修馬「……」

俺は考えた末……

修馬「ほらよ」

ナイフの向きを変え、差し出した。

樹菜「……え?」

目を丸くし、驚く樹菜を見る。
え?いいの、と言いそうな顔で俺の目を覗き込む。

修馬「ほら、殺せよ。
お前が言い出したことだろうが。
何驚いてんだよ」

樹菜はまじまじしたまま硬直している。

俺は樹菜の本当の姿を見てるようだった。

そうさ、お前は単なるプライドの高いミステリー狂人じゃない。

本当に俺も殺したいなら、さっき眠っていた時にやればよかった。
理由はよくわからないが、お前は俺を殺せなかったんじゃないのか?
だからこそ、俺が自分をオーサーと錯覚し、自殺をするようなストーリーを書いた。

さらに舞鈴の死体を自分の死体の代わりにすることや、腕を切断することなど。これはその場しのぎの一発屋の発想だ。警察がこの島を調べればお前が犯人だとすぐわかるだろう。
お前は完全犯罪をしようとしているんじゃない。

……俺たちと一緒に、死のうとしていた。

修馬「早く受け取れよ」

樹菜の片方しかない手にナイフを握らせる。

修馬「さあ、これでいつでも殺せるだろ?」

樹菜は俺とナイフを見比べている。

修馬「吹雪に感謝するんだな!
あいつの言葉がなければ、俺はお前を殺してたよ。恋人の仇だからな。
だがあいつはお前みたいな奴でさえ、理解しようとした。最期まで!

だから、そのかわり教えろ。
あんなに優しかったお前に……
……お前に、何があったのかを。

安い挑発しやがって。
どうして俺に殺してもらおうとしたのかも含めて教えろ」

樹菜は、とても驚いていた。
純粋な子供のような目で……

樹菜「修馬……」

俺の名を呟いたと思うと……

樹菜「う!うぐ!……げほ、ごほ!」

咳き込む口を手で押さえる。
渡したナイフが地面に転がった。

それよりも……

修馬「な……!おい、大丈夫か!?」

樹菜の手と口が、血に染まっていた。

樹菜「げほ、うぅ……
大丈夫じゃ、ないかな」

辛そうに笑う樹菜。
俺の頭の中で、何かが繋がった気がした。

修馬「樹菜……お前……」

樹菜「……」

修馬「まさか……」

樹菜「……うん」

修馬「……」

樹菜「私、あと1年の命なの……」

冷たい風が俺と樹菜の間を抜けた。
木々がバサバサと揺れている。

修馬「本当……なのか?」

こんな確認しなくとも、俺の本心は樹菜の言葉を信じていた。

樹菜「……うん。半年前くらいかな。
なんか体調が変だなーって思ってて、かかりつけのお医者さんに相談したら、総合病院に連れて行かれて色々検査されて……」

修馬「……」

樹菜「いきなり言われたよ。
長くはないだろうって。
もう少し早ければ、何とかなったかもって話もされたっけな。

……すごくびっくりした。
何で私なんだろうって、何回も、何回も考えたり……」

修馬「……」

樹菜「もともと私鬱病でね。
みんなには理解されないようなことでも死にたいって思うほど悩んじゃったりしてたんだ……
だから生きてるのって辛かった……
いつか死ぬ時は自分で決めようって思ってたのに……

ふふ、おかしいよね?
自分の命が残り少ないとわかったら、死ぬことに心の底から恐怖を感じたんだ」

俺は、じっと話を聞く。

樹菜「何で怖いと思ったかわかるかな?
あのね、私ね……
このサークル以外で友達なんかいないの。
誰も私のことなんか理解してくれないし、ずっと誰からも必要とされなかった。

なのに、ここのサークルのみんなは私を認めてくれた。
私の書いた、多重人格の主人公が犯人だってミステリーを面白いって言ってくれた。
みんな、私と友達になってくれ……て……

ううう……ううっくう」

樹菜はひたすら、目をこすっている。

樹菜「……大人しい私はみんなを後ろから見てるだけのことが多かった……

だけど……
だけど、みんななかなか気付いてくれないけど……

私はこのサークルのみんなが本当に大好きだったの!」

俺は黙って聞く。
いや、何も言えなかった。

樹菜「私はただ、みんなとずっと一緒にいたかっただけなのに……
なのに私だけ……
人生が余ってるみんなが羨ましかった……

死ぬことが怖いんじゃない!
自分だけみんなと離れることが怖かった。
またひとりぼっちに戻るのが怖かった……

どんなことよりも……」

修馬「だ、だからって……
何でそれを俺達に相談してくれなかったんだ!」

樹菜の眉が寄り、俺に叫んだ。

樹菜「出来るわけないじゃん!!
私はいつも楽しそうなみんなが好きだったんだよ!なのに自分の病気のことをみんなに話しちゃえば、楽しい雰囲気なんてなくなっちゃうじゃない!
私が死ぬ日まで……ずっと……
だから……言えなく……って……
……ううう」

俺は、この事件の動機を理解した。

樹菜「……ふう。
修馬はさ……仲間の誰からも気付いてもらえなかったことってある?」

ただ俺はきっと……

樹菜「自分なんかいなくても、誰も気にしないんじゃないかって思ったことある?」

この子の孤独を、本当には理解出来ないだろう。

樹菜「1人だけ仲間外れになることって怖く感じないの?」

何故なら、俺にはずっと吹雪がいてくれたから。

俺は何も返せず立ち尽くしていた。

樹菜「私はとても怖かった。
でもね……
みんなと一緒なら怖くないんじゃないかなって思っちゃって……
みんなが待っててくれるなら、弱い私でも何とか受け入れられるんじゃないかなって思っちゃったから……

みんなが……大好きだったから……
私はみんなを殺したの。

えへへ……私頭おかしいでしょ?」

涙の笑顔。
それに向かい俺は一歩、また一歩歩む。

樹菜「……修馬?」

目の前の樹菜。
俺は、優しく抱き寄せてみた。

樹菜「え?……修馬?」

修馬「もういい……
もう、わかったから」

樹菜「……」

修馬「確かにお前は頭おかしいよ。
そりゃ間違いねえ。
だけど俺だっておかしかった」

“樹菜、どうした?体調悪いんじゃないか?”

修馬「1人で抱え込んだお前と、何も気付いてやれなかった俺。
どっちも馬鹿野郎だ。
だからもういい。
むしろ、ごめん。
気付いてやれなくて……」

樹菜「……うう」

“先生……
あと……どれくらい残ってますか?”

樹菜「うあああああああああああ!!」

樹菜の右手が俺の背中を掴む。

樹菜「あああ……ああああああああ」

そう……

カウントダウンってのは……
お前の命のメッセージだったんだよな。

翌日、俺は迎えの船で島から帰還した。

俺は本土へ帰るまでずっと樹菜の肩を抱いていた。

樹菜はひたすら俺の服を掴んでいた。

樹菜はもう俺を殺すことはしなかった。

いや、正確にはやはり俺のことは殺せなかったらしい。

最後、ロッジで眠る俺に凶器を構えてはみたが、どうしても殺せなかったらしい。

だから最後に自殺を促すようなストーリーに書き換えたと教えてくれた。

なぜか?と聞いたが、樹菜はこれには答えてくれなかった。

俺達は、まず病院へ連れていかれた。

そこで警察に色々と聞かれた。

俺も警察に色々聞いてみた。

樹菜は、やはりもう長くはないとのことだった。

学校や世間からも色々と聞かれたが、俺は口を閉ざした。

理由は自分でもよくわからなかった。

ただひとつはっきりしていることは……

後悔だった。

みんなを死なせてしまったことを……

悔いていた。

樹菜を恨んではいないと言えば嘘になる……

ただ俺は……

樹菜を……

そして吹雪を……

みんなを救ってあげられなかった……

ひたすらそれを悔いていた。

樹菜は……最後、俺の死を諦めていた。

自分の苦しみを全て吐き出したためか、確かに諦めていた。

ならば、俺は……

みんなを殺す前の樹菜に、どうしてそう思わせてあげられなかったのかと……

樹菜が最初の殺人を行う前に……

もし……

もし……話してもらえていたのなら、と。

来る日も、来る日も、ひたすら悔いることとなった……

エンディングカウント 2
「生還。そして後悔……」

突き刺す、を選択

修馬「お前は……!」

樹菜「……ん?」

ナイフを強く握る。

修馬「お前みたいな人間のバグは……」

樹菜「……え?」

修馬「生きてちゃ、駄目だ!!」

刃を樹菜に向け、そのままタックルする。
ズブッと、ナイフが肉を進んだ感覚が両手に確かに伝わった。

樹菜「……あ、うあ」

樹菜が吐血する。俺の肩が赤く染まる。

樹菜がゆっくりと倒れていく。
ナイフが腹部から抜けた時、おびただしい返り血を被る。

修馬「はぁ、はぁ、はぁ」

血まみれで伏す樹菜を、荒い息のまま見下ろす。
真っ赤な自分の全身に恐怖で震えた。

殺した……
いや、いいんだこれで。
新しい犠牲者を出さないためなんだ。
これで吹雪への、みんなへの仇はうった!

樹菜「……う、ごふっ」

まだ血を吐く樹菜。
生きてる……まだ。

樹菜「うぐ……生きてちゃ、駄目……か。
辛い……こと言われたな……
ううう、うううう」

そう漏らし樹菜が泣き始めた。
俺はそこではっと思い出した。

修馬「じゅ、樹菜!」

抱き上げる。
お前は……お前は本当は……

修馬「お前、本当に自分の作品を認めてほしかっただけなのか?
それだけのために仲間を全員殺したのか?」

そうさ、趣味の近い仲間を全員殺してしまったら、誰がお前の作品を評価するんだ!
やはり、何かおかしい。

修馬「お前の、本当の動機は何だ!!」

笑顔で手を振る姿が可愛らしかったお前……
俺はあれが演技には思えない。
自己主張は少なかったが、お前は誰よりもみんなを愛してた筈だ。
なのに、何故?

樹菜「あ……う」

まばたきをすることも苦しそうな樹菜。

樹菜「……しゅ、修馬。
……修馬はさ……仲間の誰からも気付いてもらえなかったことって……ある?」

修馬「え……?」

樹菜「じ、自分なんかいなくても、誰も気にしないんじゃないかって思ったこと……ある?」

樹菜はボロボロと涙を落とす。
何だ?何だ?何が言いたいんだ?

樹菜「ひ、1人だけ仲間外れになることって……怖く感じないの?
……うう、うう」

樹菜は本気で泣いている。
その目は魔女の瞳ではない。
いつもの大人しい樹菜の瞳に戻っていた。

何だよ……?
どっちが本当のお前なんだ……?

樹菜「でも……修馬に殺されるなら……別にいいやって……思ってて……」

瞳がどんどん虚ろになっていく。

修馬「な、何がだ!全然わかんねえぞ!
動機を言ってくれよ!
それに何で俺にならいいんだよ!樹菜!」

問う。これが彼女の最期の言葉になるだろうと、両腕から感じ取れた。

樹菜「しゅ、修馬が……す」

震える唇で必死に伝えようとする。
しかし……

樹菜「……ううん……な、何でも……な……い……
ごめ……んね……」

首を横に振ったかと思うと……
樹菜は……

修馬「樹菜!おい!樹菜!!」

動かなくなった。

修馬「おい、おい!」

揺するが、もう二度と目は開かない。
不思議なほど安らかな死に顔だった。

島の木がバサバサと風に揺れる。

今度こそ本当に俺はこの島に1人となった。

ただ俺は……

生き残った……

オーサーを倒して……

俺だけが生き残った……

しかし、この事件が何故起きたのか。
樹菜が何を考えて事件を起こしたのかについては、わからない。

大人しくも優しかった樹菜が、狂った殺人鬼とはやはり思えない。

彼女に何があったのか?

何が彼女をそうさせたのか?

俺は結局わからないままだった。

エンディングカウント 1
「記されなかった動機」

Count -02

修馬「説明するにあたって、先に確認したいことがある」

樹菜「なに?」

修馬「吹雪の右手の近くの地面。
あそこにはもともと何か書いてあった。
それをお前消しただろ?」

樹菜「うん、ダイイングメッセージだと思ったから」

修馬「ああ。ただ実はメッセージはもう1つあった」

樹菜「それが右腕の字ってわけね」

修馬「普通に考えれば、地面にメッセージを書いてもオーサーであるお前に消されてしまう。だから吹雪は、一度地面に書いた文章をダミーとした。そしてその中で重要な部分を右腕に転写し、お前から見えないように地面側に隠した。
そして俺ならきっと吹雪の死体を見たら抱き上げる。そうなると初めて見えるような仕掛けをうった」

樹菜「うん、仰向けで倒れてたし気付かなかったもん。
でも転写ってことは、直接書いた文字じゃなかったんだ」

修馬「ああ、そもそも字を書いたのは右手の指でだ。左手には血がついてないからな。
右手の指で、右手首から肘にかけて文字はかけないだろう?だから転写だと気付いた」

樹菜「ふーん、なるほど。
でも転写ってことは……」

修馬「そう左右対称になっているということだ。加えて俺はひとつ勘違いをしてしまった」

樹菜「勘違い?」

修馬「ああ、俺は横から吹雪を抱き上げたからそう見えてしまったが、これは横書きじゃない。縦書きだったんだ」

樹菜「なるほど……」

修馬「向きが違う。だから筆跡が違うように見えたんだ。つまり“ヨヨ<リマ”を縦向きに読み、かつ左右対称にすると……」

樹菜「“出会”という漢字2文字になる」

修馬「そういうことだ」

樹菜「そこまではわかるよ。
でも何で“出会”が、私をさすの?
そこがわからないって言ってるんだけど」

修馬「前提としてこれは俺に向けたメッセージだ。だから俺と吹雪の出会いについて考えればいい」

樹菜「ふーん、出会った頃の思い出の中に私を指すものがあるってこと?」

修馬「まさか。出会ったのどれだけ昔だと思ってんだよ!中身まで鮮明に覚えてるわけないだろ。それは吹雪も同じだろう。
だからこれは時期を指しているんだ」

樹菜「時期……つまり、年齢?」

修馬「ああ、俺達の出会いは3才の頃だ。……そう3才。吹雪が伝えたかったのはこれだ。3という数字」

切断されて転がった手首。
生々しく浮かんだ数字を思い出す。

修馬「どうだ?オーサー。
自分の書いたものを利用された気分は?」

樹菜「……」

眉間に皺を寄せている。
悔しそうだった。

修馬「お前の負けだよ。オーサー」

樹菜「……そう、だね。
残念だよ、あなただけ殺せなくて」

不敵に笑う殺人鬼。

修馬「最後にひとつ教えろ」

樹菜「なに?」

息を飲み、問う。

修馬「吹雪は……吹雪は最期に、何て言っていた?」

言葉が震える。
涙が……我慢していた涙が溢れそうだった。

樹菜「……ふふふ。
あのね、ボウガンさ。
実は持ってはいったの」

修馬「は?」

樹菜「修馬が眠った後に吹雪の前に堂々と姿を現した時の話だよ。
確かに使えはしないと思ってたけど、脅しの武力には十分だった。
眠っている修馬を打ち殺されたくなければ、バットを捨ててロッジの外に出ろって」

胸が苦しくなる。

修馬「それで?吹雪は言うことを聞いたのか?」

樹菜「うん、勿論。
その時に私をいつから疑ってたかとか聞いたの」

修馬「で?それで?
吹雪は最期に何て言ったんだって!」

樹菜「……」

樹菜は答えない。
少し笑みながら、目線を逸らす。

修馬「答えろ!樹菜!」

樹菜「……うん。
“どうして、みんなを殺したの?”って」

……。
……吹雪らしい。
言われてみれば、確かに吹雪はそう言うだろうという確信がある。

“誰だって何かしら抱えて生きている。意見が合わなくても、喧嘩になっても、傷つけられても、相手の隠れた行動理由さえ理解してあげれれば、被害者と加害者だって分かり合えたかもしれないよ”

かつてサークルで話していた吹雪の言葉を思い出した。

樹菜は、まだ笑みが消えていない。

でも……でも吹雪。
こいつに理由になんてあるのだろうか?
一体どんな理由があれば、みんなやお前を殺したことに俺は納得出来るんだろうか。

こいつはただ、自分の作品への承認欲求でオーサーになったんじゃないのか!

樹菜「そうそう。吹雪の最期に言った言葉は今伝えた内容だけど、地面に書いた文字があったよね。
そういう意味では、あれが最期の言葉だったのかな?」

何?ダイイングメッセージじゃなかったのかそれは?

修馬「何て書いてたんだ?」

樹菜「まあ順番に話させててよ!
……拓将がまだ生きてるって話を吹雪から聞いてたから、すぐに拓将のとこへ行ったんだ。修馬が起きる前に片付けておきたかったから」

修馬「……」

樹菜「てかさ、拓将は可愛かったよ。
“お前は、死んだ筈じゃ?”とか言っちゃてて。あはは。まあ叫ばれたりしても困るから吹雪のバットで何回か殴ってすぐ殺したんだ。結構大きな音がしちゃって修馬が起きちゃったか焦ったけど、あなたの寝起きの悪さに感謝したのはこの時が初めてだったね」

修馬「……」

樹菜「で、もう一度吹雪のところへ戻ってみると吹雪は死んでたんだけど、地面の文字があったってわけ。
ダイイングメッセージかと思ってすぐ消したんだけどねー」

修馬「……い、いい加減にしろ!
俺は何て書いてあったか聞いてんだよ!」

樹菜はニッと口を結ぶ。
その口がゆっくりと開いていく。

樹菜「……ふふ。
“初めて出会った当初は、修馬のことどっちかというと嫌いだったのに”って書いてたよ。あはは、本当だよ」

……。

地面が涙を吸っている。

自分の意思とは関係なく、ずっと吹雪との思い出がフラッシュバックし続けている。

吹雪……

誰よりも、泣き虫だった。
誰よりも、馬鹿だった。
誰よりも、賢い時があった。
誰よりも、優しかった。
誰よりも、俺のことを好きでいてくれて……
そして誰よりも、好きだった……

吹雪……

吹雪に会いたい。
すぐに抱きしめて、もう今度は絶対に離さない。

やっと思いを伝え合った。
樹菜の腕を掴む俺の左手。血のついた腕時計は孤独に虚しく時を進めている。
吹雪と俺は、これからだったのに……

どうして……

どうして……こんなやつに殺されなきゃいけなかったんだ!!

吹雪は、こいつの狂ったミステリーのキャラクターなんかじゃなかった……!

樹菜「……ふふ、くひ!
あれ?泣いてるの修馬?」

“誰だって何かしら抱えて生きている”

樹菜「泣いたって吹雪は返してあげないよ?」

“意見が合わなくても、喧嘩になっても、傷つけられても……”

樹菜「むしろいつもベタベタ鬱陶しかったから、死んで丁度いいんじゃない?
……うんうん、そうだよ!いつまでも修馬の側にいれるだろうって考えがそもそも甘いんだよ!」

“相手の隠れた行動理由さえ理解してあげれれば……”

樹菜「修馬だってこんな状況にならなきゃ、あれに対して別にいつもと変わらなかったんでしょ?」

“被害者と加害者だって分かり合えたかもしれないよ”

樹菜「むしろ私の作品で、お互い気持ちを伝え合えたことにお礼言ってほしいくらいなんだけど。あははは!」

怒りに震えた。
ナイフがガタガタと連動する。

樹菜「あ!そうだ!
修馬、そのナイフ返してよ!

……私が、吹雪のところへ送ってあげるから、さ」

怪しく微笑む樹菜。
悪魔のよう……いや、悪魔だこいつは!

俺は樹菜を掴んでいた手を離し、ナイフを両手で強く包み込む。

樹菜「ほら、早く。
修馬は吹雪と会いたい。
そして私は自分の作品を完成させたい。
これはウィンウィンだよね。
さあ、ナイフを渡して……」

樹菜がニコニコと一歩近寄る。

俺は覚悟が出来ていた……

俺はナイフを……

Count -01

5日目、0時
ロッジの前
視点、修馬

樹菜「……ねぇ」

腕を掴まれたままの樹菜が口を開いてくる。

修馬「何だ?」

樹菜「私のコテージが燃えた時……
あの時は死んだと思ってくれた?」

修馬「ああ、あの時はな。
まんまとやられたよ」

そう、お前が死んだ時の俺の涙に嘘はない。

修馬「コテージの中から声がしてたし、焼け跡から左手のない死体が見つかればお前は死んだと思うよ」

樹菜「……」

修馬「でも、火がついたコテージの中でお前の姿を確認したわけじゃないと思い出した。窓から火が吹き出しててドアは曲がって開かない……いやあれもよく考えたら都合が良すぎる。窓はともかく、ドアには鍵をかけたんだろう?
誰も入って来れないように。

中から聞こえたお前の声も、俺の投げかけた言葉に応じた内容はなかった。
つまりもともと録音していた声を再生して、お前自身は爆発前に窓から逃げていたんだろう?」

樹菜「……」

怒られた子供のように樹菜は下を向いている。

修馬「じゃああの死体は何なのか?
俺は崩れたコテージから、ちゃんと焼死体を見つけている」

樹菜「……」

修馬「樹菜、お前……最低だよ」

樹菜「……」

修馬「あれ……舞鈴の死体だろ?」

樹菜の目線がさらに下がる。
俺は図星だと確信する。

修馬「つまりこういうことだ。
舞鈴の死体をコテージのどこかに隠しておき、あらかじめ左手首を切り落としておいた。こうすれば、同じ小柄な女子の焼死体になってくれる。

そうさ。お前はこのために舞鈴を最初のターゲットに選び、自殺に見せかけた。
全てはまだ連続殺人を認知していない2日目の夜に、舞鈴の死体を自分のコテージに移動させておくために!」

樹菜「……」

修馬「心十郎が見た舞鈴の幽霊ってのは、死体を背負い移動しているお前の姿だったんだろう。あれにはお前も肝を冷やしただろうな。決定的瞬間なんだから。
見たのがヤク中の心十郎じゃなければ、舞鈴の死体を確認しに行ってたかもしれない。

……まあミスもあるだろうよ。
2日目の夜は忙しかっただろう?
舞鈴の死体の移動以外に、部長の殺害と、遥輝の殺害も併せて行っていたんだから。そうだろう?」

樹菜「……はぁ」

そこで樹菜は目を閉じ、溜息をついた。
何かを諦めたように見える。
そして再度開かれた瞳に俺は驚く。

樹菜「そうだよー。大変だったの。
……ねえ、聞きたい?」

しゅんとする子供……という仮面が外れ、妖しい魔女のような瞳が現れていた。

樹菜「部長さ、私が夕飯に睡眠薬入れたことに気付いたのかさ、コテージの中にいなかったの。
あっ、事前にコテージの電話に出ないことを確認したからこそ、殺しに行ったんだけど、まさかいないとは思わなかった。
狙われてるのを察知して、別の場所に隠れたのかなって思ったから探したらさ、コテージの天井裏で眠ってやがったんだ!
多分、初日に物色でもしてて見つけたんだろうけど、天井裏は私が死んだフリする時に舞鈴の死体を保管しとく場所だから、そこで殺すわけにもいかなくて、もともと寝てたようにベッドに戻すの大変だったんだよ」

いつも大人しい女の子が人を殺した話には饒舌になる。
正直、見たくない光景だ。

樹菜「そして遥輝!あいつ紳士ぶってたじゃん?だからこいつもコテージの電話で呼び出した。怖くてたまらないから一緒にいて欲しいって泣きついたら、ノコノコ来てくれたんだ。一応夜道警戒しては歩いてたけど、待ち伏せてボウガンで一撃!
でも死体はまだ見せない方が、犯人っぽくなってくれるかなーって思って、海まで引きずって沈めといた。
……全く!か弱い体で、夜中に3つも死体動かすと疲れるよー。夜もほとんど寝れなかったしね」

樹菜……
それが……お前の本性なのか?

樹菜「あ、舞鈴を最初に殺した理由は、修馬の言った通り。自分の死体のダミーは早目に用意しときたかったから。だけどあの2人をこの夜に殺しておきたかった理由もちゃんとあるんだよ?わかるかな?」

修馬「……部長は俺たちの中で一番賢いから。遥輝は数字を押した本人だから……」

樹菜「正解!すごいね修馬!
……ふふ、でも遥輝には悪いことしちゃったよね」

修馬「何がだ?」

樹菜「あれ?気付いてないかな?
遥輝の押したスタンプなんだけどさ……」

修馬「……ああ」

樹菜「あれ、ただの透明の液体。
実際にみんなの死体に浮き上がった数字とは全く何も関係ないんだよ」

修馬「な!なんだと!」

驚く。

修馬「いや、でも……実際、え?」

樹菜「本当だよ。だから今、修馬の腕を掴んだんだよ。さあ、死んだことだし数字を押そうかってね。

ふふ、数字は全部後出しなんだ。
欲しかったのは偽の認識。
死んだら浮かぶ数字を既に押されている。
自分は何番だ?誰が殺しに来る?
こうなればより焦燥感を煽れるでしょ?

それによく思い出してみなよ。
確かに死ぬと発色する液体は持ち込んでいたけど、実際に発色し始める様子を確認したのってさ……」

合点がいく。そういうことか!

樹菜「私の3と、心十郎の5だけでしょ?」

修馬「……なるほど。舞鈴や部長達は殺した後に数字を押せばいいし、自分の手にはいつだって記せる。そして心十郎は……」

樹菜「うん。トイレで死にかけてたのを見つけた時に、急いで押したの!
いやー全く、私の立場にもなってほしいなー!オーサーは死の順番を指定してるって設定なのに、私の断りもなく勝手に死なないでほしかったよ。
たまたま第一発見者が私だったから何とか対応出来たけど、みんなで一緒に死体を見つけてたら、数字ないじゃん!ってなってたとこだったんだもん!」

こいつ……
掴む手に力が入る。

樹菜「痛いよー修馬。
でもこの不測の事態のせいで、吹雪から疑惑を持たれたんだ」

修馬「吹雪が?何で?」

樹菜「いくら演出やトリックとはいえ、連続殺人の順番を予め刻印をしておくなんてリスクが高すぎる。
舞鈴、部長、心十郎、遥輝、私……
予め決めた割に、順番には何の意味やメッセージ性も見出せない。

……つまり、透明な数字なんて本当はないんじゃないのか?
そうなると、全ての数字を記せたのは私しかいない。これが吹雪の推理だよ。
はぁ……数字はあるって信憑性を上げるための手首切断が逆に仇になってしまったわけ」

なるほど。そんなこと考えもしなかった。
俺なんかより吹雪の方がすごい。

樹菜「でも褒めてくれない?
あの手首切断ショーの段階で、自分のコテージで焼け死ぬまでのストーリーを全て予測していたんだよ?
だからこそ手首を切るに至ったの」

なんだと?
正直、驚愕だった。
本当なら、俺たちはこいつに踊らされてただけということになる。

樹菜「驚いてるね。本当だよ?
まず私は錯乱した演技をし、自分のコテージの近くで手首を落とした。
理由は、応急処置を自分のコテージで行なってもらうため。何故自分のコテージかはもうわかるよね?
そう、設置された爆弾と天井裏のダミー死体があるからです!

でね、問題はこの後!
私は拓将の思考を重点的に予測した。
私が手首を無くしたことにより、もう私は戦力外。昨日アリバイを証明し合う形となった修馬と吹雪両方がオーサーってのが、最悪のストーリーだと拓将は考える。
結果、小さなコテージ内で一緒に夜を過ごせない。
きっとどうせなら遥輝を探しに行くと予想した。
遥輝を探しに行くのなら、吹雪がオーサーだと書かれた手紙を遥輝のコテージで見つけてくれるだろうと考えた。
……あーあとあの手紙ね、本当は遥輝が行方不明になった朝に見つけてほしかったものなんだけど、上手く隠し過ぎてて見つけてくれなかった。失敗したなーって思ったなぁ」

淡々と喋る樹菜を、何も言えず見つめる。

樹菜「そして手紙を見つけ読んだ拓将は、戻って来て吹雪を追求するだろう。しかし病室となった私のコテージではやり辛いので、拓将が吹雪を連れ出し、修馬がそれを追う。もしくは修馬が私を気遣い、拓将と吹雪を連れて外に出るか」

オーサー樹菜……
こいつ……

樹菜「一瞬……そう、一瞬でいい。
一瞬、私をコテージに1人きりにしてくれれば自爆演技なんて簡単だから。
あと自分の手の甲の数字をひとつ先の3にしたのも実は心理トリックなんだよ?
まあこいつは4が出るまで大丈夫だろうっていう小さな油断を誘うためにね」

こんなに賢かったのか。
知らなかったよ。

樹菜「あーでもまさか、遥輝のコテージに明かりが点いたからって修馬が見にいくとは予測しきれなかったなー。
ふふ、修馬あれダメだよ?最低だよ?」

修馬「な、何がだよ?」

樹菜「教えてあげようか?吹雪はあの時既に私に強い不信感を持っていた。
なのに修馬ったら、吹雪の話を聞いてあげもせずに、遥輝のコテージに行くからって、疑惑のある私と2人きりにしようとするんだもん。
そりゃ、天使の吹雪ちゃんもスネるよねー。結局2人で過ごしたけど、吹雪めちゃくちゃ冷たい目で私のことずっと警戒してたんだよ?あはは!」

魔女の笑顔に怒りが爆発しそうになる。
女を殴りたいと思ったことは初めてだ。

樹菜「でも、やっぱり吹雪はすごいよね。ついさっきの話だけど、修馬が寝たことを確認したから、吹雪を殺そうと堂々と現れてやったんだ。すると吹雪、何て言ったと思う?」

修馬「……何て言ったんだ?」

樹菜「やっぱり……って言ったんだよ!
さすがに私死んだら考え改めない?
なのに、ブレずに私を疑い続けていたみたい。
……もしかして、吹雪1人になった時に舞鈴のコテージに行ったのかな?
そして死体がないことを確認しちゃってたのかな?……て、さっきまで考えてた」

吹雪ならありえる。
こいつは天然って言われてるが、頭を使うことが少ないだけで、頭を使わせると結構賢いんだ。そんなことは知っている。
……幼馴染なんだから。

樹菜「ねぇ……」

修馬「……あ?なんだよ?」

樹菜「私、色々話したよ?
修馬もあれ教えてよ」

樹菜は掴まれた右手で吹雪の死体に指をさす。
あれ……だと?
怒りで我を忘れそうになるが堪える。

修馬「……ダイイングメッセージのことか?」

樹菜「うん、ああいうのって犯人である私にはわからないようになってるんじゃないの?あれが何で私になるのかな?」

首をかしげてきやがる。
その首をへし折ってやりたい。

堪える。俺もこいつにまだ聞かなければいけないことがあるからだ。

そして、俺は意を決しダイイングメッセージの意味を口にすることにした。

Count 0’

4日目、夜
ロッジの前
視点、オーサー

木の裏に隠れ、耳を傾ける。

修馬「俺がオーサーだったんだ!あははははは!」

狙い通りの展開に笑いをこらえる。
いいぞ、そう思わせるために眠っていた修馬を殺さなかったんだから。

言うならこれは賭けの終焉。
オーサーとして書いたミステリーが完璧ならば、修馬はそう推理せざるを得ない。

やがて……

ザクッ

肉の切れる音と、共に人の倒れる音がした。

よし……!

木から顔を出し、視線を送る。
修馬が吹雪の隣に倒れていた。

修馬はピクリとも動かない。

静かに歩み寄る。

首を右手で抑える修馬。首付近の地面が新たに赤く染まり始める。

……勝った。

最後の1人の修馬が、死んでくれた。

満足感に広角がつり上がる。
例えるなら、コレクターがシリーズをコンプリートした瞬間の感覚に近いだろう。

吹雪から贈られた腕時計を覗く。
針3本が盤の頂上で重なったタイミングを待ち、呟く。

???「修馬……誕生日おめでとう」

届くか定かではない言葉は、自分の満足感に加えるために吐きかけた。

これで……
あとは……

しゃがみこみ、修馬の左手首を握る。

???「……ん?」

まだ脈がある……?

修馬「おう、サンキューな」

はっと気付くが、遅かった。
修馬の左手が、自分の右手を強く掴み上げる。

???「く……!」

修馬「動くな!」

修馬のもう片方の手にはナイフがあり、こちらに向けられる。
ナイフを握る彼の右手からは血が垂れていた。

何故?首から血が出てた筈……
なのに……
……そうか。なるほど。

修馬「おう、気付いたようだな。
切ったのは手のひらだ。これで首を抑えることで、首を切ったように見せかけたんだが、上手くひっかかってくれたようだな」

……馬鹿だ。
油断した……最後に!
こんな……こんな子供騙しなトリックに。

修馬「悔しそうだな?
死んだフリして奇襲なんて卑怯だとは言わせないぞ?
……お前だってやったことなんだから、な?」

掴まれる右手に力が込められる。
修馬の怒りが伝わってきた。
目線を左下に下げる。

修馬「……やっぱり。
やっぱりお前だったのか。
半信半疑だったが、本当に信じられねぇよ」

……え?気付かれていた?いつから?
驚き、目線を戻してしまう。

修馬「不思議そうだな。
……吹雪が教えてくれたんだよ。
お前がオーサーだってことをな」

修馬が顎で指す先を見る。
何故?……“あれ”は確かに消したのに。

???「……あ!」

吹雪の右手首から肘の裏にかけた血文字が見えた。

しまった!そういうことだったのか!
吹雪……
やっぱりこいつは……こいつを侮ってはいけなかった!

修馬「あれで確信に変わったよ。
お前がオーサーだとな」

???「か、確信……?」

修馬「ああ、俺はさっきあるものを見て、もしかしてお前がオーサーじゃないのかと推理してたんだ」

???「……あるもの?」

修馬「吹雪と、拓将の死体さ」

???「……あの2人の死体で、何故?」

修馬「2人をどうやって殺した?」

何か関係あるのだろう。
……答えるしかないか。

???「刺殺と……撲殺」

自白に近いが、修馬の推理が知りたい気持ちが勝る。

修馬「そうさ。カウントダウンも終盤。最初の被害者舞鈴と違い、あの2人は簡単に殺されてくれなかっただろう。なのに、わざわざ近づいてこの2人を殺した。オーサーには強力な武器が残ってる筈なのに」

強力な武器……そうか、そこから。

修馬「そう、遥輝を殺したボウガンさ!
お前、遥輝の死体から矢を抜いただろう?
つまり、矢と本体はまだお前が持っている。あんなものがオーサー側に残ってるなんて恐怖しか覚えなかったよ。
なのにボウガンを使わずに、わざわざ2人に接近してナイフと鈍器で殺している」

奥歯を噛みしめる。
吹雪だけじゃなかった……

修馬「何故ボウガンを使わなかったのか?様々な凶器を持ち込んだ中でも、あれは大型で飛距離重視の切り札だったんだろ?」

修馬も、侮ってはいけなかった。

修馬「言いたくないなら、言ってやるよ。
お前は使わなかったんじゃない。
使えなかったんだ!」

いざという時はやる人だと、知っていた筈なのに。

修馬「遥輝を殺した時と状況は変わり……
2kg以上もする重量物で狙いを定めることも……
もし外した時に矢を装填し直す作業も……
“片手”では出来ないと判断した。

違うか?……オーサー。いや……」

そういうところに……惹かれた筈なのに。

修馬「……樹菜」

樹菜「………………」

なくした左手と、掴まれた右手。
私は……敗北を受け入れることにした。

選択肢とか分岐とか

選択肢

【Q0】海で何をする?1人1人と会話出来る。

ビーチバレー、拓将、文明
海水浴、吹雪、舞鈴
日焼け、遥輝
人狼ゲーム、心十郎、樹菜

【Q1】舞鈴「修馬、吹雪のご飯美味しかった?」
①ああ。吹雪はいい嫁さんになりそうだな
②いまいちだったな

①を選べば舞鈴の視点あり
②を選べば舞鈴の視点なし

【Q2】コテージについた。さあどうする?
①もう遅いし寝る
②散歩にでもいく
③夜の海を見に行く※

①を選べば問題ない。
②を選べば、ゲームオーバー。
舞鈴のコテージに近づくとボウガンで撃たれる。エンディングカウント7へ
「予期せぬ最初の犠牲者」

③はエンディングカウント2を見た後に出現。エンディングカウント8へ

【Q3】遥輝の言ってることをどう思う?

①遥輝の言ってることはおかしいぞ
②全然気付かなかった。すげえマジックだな!

①を選べば、遥輝視点が見れない。
②を選べば、遥輝視点が見れる。

【Q4】文明の話を聞き俺は……

①内部犯の可能性も挙げる
②そんなこと言ってる部長も怪しいぞ
③確定的なことはないので、何も言わない。

①②を選ぶと文明の視点が見れない。
③を選ぶと文明の視点が見れる。

【Q5】吹雪の一緒に寝たいというお願いを……

①断る
②聞いてあげる

①を選べば吹雪の視点が、見れない
②を選べば、吹雪の視点1/3

【Q6】心十郎の今の話は……

①参考にする
②幽霊なんていない

①なら心十郎の視点が見れる
②なら心十郎の視点が見れず、トイレで樹菜もろとも殺される

【Q7】ハンマーが2本あった。どうする?
①俺が持ち、吹雪には持たせない
②吹雪に持たせるが、俺はいらない
③2人とも持つ
④2人とも持たない

②④ならビーチで拓将に殺される
①ならビーチで吹雪が助けに来られない
③が正解

【Q8】樹菜を見る
①額の汗を拭いてあげる
②樹菜はオーサーの可能性があるので尋問する

①を選べば、樹菜の視点が見れる
②を選べば、尋問中に爆発する

【Q9】吹雪の質問に対して
カウントダウンの理由は?

①理由なんてないのだろう
②俺達の恐怖心を煽るためかな
③何かトリックのためかもしれない
④動機に密接に関わっているのかも

①②を選ぶと、何もなし
③は吹雪の視点へ2/3
④は樹菜との決戦の時に、ナイフを渡す選択肢が出る

【Q10】コテージを出て……
①一直線に遥輝のコテージへ
②少し遠回りになるがビーチ沿いから向かう
③かなり遅くなるが、ほふく前進で進む

①だと、ビーチで遥輝を信じられず殺し合いになる
②だと、遥輝を信じることが出来る
③だと、着いた瞬間誰か(遥輝)に殺される

【Q11】火事のあと……
①拓将と一緒にいる
②こいつは信用ならない。別行動だ!

①を選べば、拓将の視点
②を選べば、拓将の視点が見られない

【Q12】吹雪が拓将に殺されそう
①拓将を信じる
②吹雪を信じる

①を選ぶと吹雪が殺される。拓将はびびって逃げるが、自分も海へ逃げゲームオーバー!
②なら正規ルート

【Q13】吹雪と2人にて
①吹雪はオーサーかもしれない
②吹雪はオーサーではないと思う

①を、選べは吹雪の視点は見れない
②を、選べば吹雪の視点3/3

【Q14】オーサーは誰か?
ダイイングメッセージは何が書いている?
①カタカナ
②ひらがな
③アルファベット
④漢字
⑤数字
⑥これは吹雪が書いたものではない

さらにその言葉が示すものは?
①カタカナ
②ひらがな
③アルファベット
④漢字
⑤数字
⑥人の名前

つまりオーサーの正体は?
①橘修馬
②夜桜吹雪
③桐島拓将
④星野遥輝
⑤音無樹菜
⑥真木心十郎
⑦神原文明
⑧白浜舞鈴
⑨舞鈴の父親
⑩外部犯

【Q15】最終決戦!
①ナイフを突き刺す
②ナイフを渡す

①を選べば、エンディングカウント1
②を選べば、エンディングカウント2

Count 0

別荘の前に仰向けで倒れている吹雪がいた。
あろうことか周りには血の海が広がっている。

修馬「……うそだろ!吹雪!」

横から吹雪を抱き起こす。

修馬「あああ、吹雪!」

地面には赤いナイフ。
首の動脈が切られた跡。
息をしていない。
脈も止まっている。
……冷たかった。

修馬「う、何で?冗談だろ!ふ、吹雪!」

揺するが、首はだらんと傾くだけ。
ほっぺたを叩くが、虚ろに開く目はどこも見ていない。

修馬「ああ、あああ!吹雪いいい!!」

抱きしめる。
しかしもう温もりは、感じられない。

……間違いなく、死んでいた。

修馬「うああああああ!!」

叫び、泣き崩れる。

修馬「あああ、ううう、吹雪!」

奥歯を潰れるほど噛みしめる。
後悔……身が引きちぎれそうだ。

吹雪と一緒にいると約束したのに、何で眠ってしまったのか!
約束したのに……約束したのに!
また俺は約束を守れなかった!

悔いても悔いきれなかった。

一緒にいればきっと吹雪は殺されずに済んだ筈だ。

そう、吹雪は殺された……
……オーサーに!

……くそ、オーサーは誰だ!
ぶっ殺してやる!

後悔、悲しみ、絶望、そして怒り。
それらの感情を抱きながらも俺は発見する。

吹雪の左手の甲の数字、2を。

修馬「2……」

吹雪は数字を書かれていないと遥輝からの手紙に書いていた筈なのに。
いやいやあんな手紙、今となっては何の信憑性もない。

そしてまた気づく。
吹雪の右腕に赤く何か書いてあることに。
手首の内側から肘の裏側にかけて、横文字でこう書かれていた。

“ヨヨ<リマ”

……何だこれ?

吹雪の手を見る。左手の指には血がついていなかったが、右手の人差し指の先だけ意図的に赤く染まっていることが見つかる。

つまり、吹雪が書いたのか?
俺に何か伝えようとしたのか?

たださっきの手紙と比べて、筆跡が違う気がする。文字として何とか読めるというレベル。
……これはオーサーが書いた?

周囲に注意を払う。
よく見れば、もともと吹雪が仰向けで倒れていた右手辺りの土は、箒で掃かれたような跡が見られる。

……?
何だ何だ?どういう状況なんだ?

待て待て、落ち着け。
簡単な話だ。
これで7から1。全ての数字が出揃った。
数字が書かれていなかったやつがオーサーだ!

7は舞鈴
6は部長
5は心十郎
4は遥輝
3は樹菜
2は吹雪
そして1は拓将

唯一、数字が書かれていないのは……

……俺?

えっ、俺が……オーサー?

修馬「オーサーは……俺?」

声に出る。
そんなバカな。
俺はオーサーじゃない。

しかし気付く。

……もう俺しかいないじゃないか。
もうこの島で生きているのは俺だけなんだから。

俺がみんなを殺してた……?

頭の中に映像が広がる。
誰にも見られていない時。俺は、舞鈴の首を絞め、遥輝を射ち殺し、樹菜のコテージに爆弾を設置する。
眠っていた筈の俺が起き上がり、部長を刺し、拓将を撲殺し、吹雪の首にナイフを添える。

俺はやめろと叫ぶが、俺は殺人をやめない。

つまり俺の心の片隅には常に殺人願望があり、俺は俺の知らないところで殺人をしていたのだ。

何で気付かなかった?

無意識下。
他の人格による犯行。

サークルで話題に上がっていたじゃないか。

そうか……全く考えなかったよ。

俺だったんだ……

修馬「俺がオーサーだったんだ!あははははは!」

全部俺がやった!

カウントダウンは成功したんだ!

……さて、それではいよいよ大団円だ。
オーサーとして俺は最後のシナリオを書かなくてはならない。

吹雪の血で染まるナイフを、震える手で構える。

ひひひ

みんな幽霊になって、俺を待っている。
みんな悪いな。すぐそっちに行くよ!

ひひ、ひはははは!

ザクッ

肉が切れる音と、赤く染まる視界。
俺は、吹雪の横に倒れこんだ。

吹雪……

ごめんな、吹雪

手を握る。

今からそっちにいく
これからもずっと一緒にいよう

そう……約束したもんな。

体の感覚がなくなっていく。
崩れていく俺の世界……
……眠い。

瞼を閉じるとこれまでの出来事が、次々と映る。

舞鈴「私のお父さんが別荘貸してくれるんだから感謝しなさいよね」

文明「俺はこのサークルの責任者だ。こんな時だからこそ、みんなをしっかり導いてやらないといけない」

心十郎「僕達はオーサーの用意した登場人物。オーサーの書いたミステリーの順番に殺されていくのさ」

樹菜「いやだ!私、死にたくない!修馬!助けて!いやああああああ!」

遥輝「ふ、僕はマジシャンだよ。昨日一日使って全員に気づかれないように対応済みさ」

拓将「だまれ!殺される前に殺してやる!」

吹雪「ずっと……ずっと好きだった。
好きだって伝えたかった」

走馬灯か。もはや懐かしかった。

……最期の感覚だった。

俺の目の前に誰か立っている……?

そいつは死にゆく俺のことを見下ろし、口角を吊り上げていく。

……誰だ?

お前……誰だ?

認識出来ない。

ああ、でももうどうでもいいや。
きっと、気のせいだ。

これで、オーサーは……俺はもう、このミステリーにペンを置くんだか……ら……

修馬視点 完

修馬が死亡したちょうどその時、吹雪から貰った時計の針3本が盤の頂上で重なる。

そして……

???「修馬……誕生日おめでとう」

確かにその声は修馬の死体に吐きかけられる。

物語の筆を置くように、新たな死亡者の手の甲に、じわじわと最後の文字が浮かび上がる。

全てを無に帰す、0の文字が……

Count 01

心十郎「この真相のケースは珍しいね」

文明「ああ、犯人が無意識下で犯罪を犯していて、犯人も自分の犯行に気づいていないとはな……」

拓将「でもそんなことあるんかねー!ちょっとポケットに物を入れるとかじゃなくて、殺人だぜ殺人!」

遥輝「でも僕は美しいと思うよ?正義感の強い人格と破壊衝動を持つ人格の葛藤なんて特にね」

樹菜「……でもみんなわからなかったのに、修馬だけ主人公が犯人ってわかったのすごいね」

修馬「……ぐう……ぐう」

舞鈴「ちょっと修馬!何寝てんのよ!会議中よ!」

吹雪「修馬起きてよー!」

修馬「……ん?ああ、悪い悪い。
……ぐう」

吹雪「修馬!もう、知らないよー」

誰もいなくなった部室で1人。机から這い上がる。
あれ?みんな俺を置いていっちまったのかな?

修馬「おーい!もう誰もいないの?」

俺の声が虚しく反響する。
しゃあねえ。部室の鍵、顧問の先生に返して俺も帰るか。

鍵を持ち、鞄を担ぐ。
部室の扉を開いた。

???「……」

扉の先に“あいつ”が立っていてびっくりした!

修馬「おー、どうしたんだ?
もうみんな帰ってるから、俺も……」

???「先生……」

修馬「へ?」

???「あと……どれくらい残ってますか?」

4日目、夜
ロッジ
視点、修馬

修馬「はっ……!」

勢いよく目が開いた。
汗びっしょりの体。

何だ今の夢は……?

夢の最後、“あいつ”は何を言おうとしたんだろうか?

心に疑問がひっかかる。
だが俺は次第に周りの静けさに意識が向き始める。

夢と同じでロッジのリビングには人の気配がまるでしなかった。

吹雪?どこ行った?

貰った腕時計で、早速時間を確認する。
疲労のせいか、だいぶ寝ていたようだ。
もう夜中になっていた。

修馬「吹雪!」

……返事はない。
物音すらしない。

何だこの……
世界に自分しかいなくなったような強烈な不安感は……

修馬「吹雪!どこだ?いたら返事してくれ!」

再度声を張るが何も返って来ない。
不安がどんどん大きくなる。

時間にルーズな自分はよく寝過ごして肝を冷やすが、これほど嫌な予感はかつてあっただろうか?

どこに行った?

キッチンで飯の支度をしてくれているのか?

訪れてみたがキッチンにも人の気配はない。

そうか!トイレか!

トイレを足を運ぶ
段々歩みが早くなってくる。

早く、早く吹雪の存在を確認したかった。

毛布がかけられている心十郎の死体には目もくれずトイレの中へ声を張る。

修馬「おい、吹雪!おーい!」

……返事はない。トイレにもいなかった。
嫌な汗が噴き出す。

おいおい、じゃあどこに行くんだよ?

……まさか、拓将のとこか?

そうかそうか。
拓将はオーサーとはいえ、喉は乾き腹も減る。
優しい吹雪なら、そういう世話をかけてあげていてもおかしくないじゃないか!

俺はリビングに戻り、縛りあげた拓将がいる隣の部屋へ!

修馬「吹雪?」

扉を開き……

……驚いた。

そこは血の海になっていたからだ。

修馬「なっ!何だよ、これ……おい」

部屋の真ん中には縛られたままの拓将が。
頭がぐちゃぐちゃになっていて、辛うじて着ている服と髪の色から判断出来た。
頭を何度も鈍器で叩かれたのだろう。

修馬「ひでえ……で、でも何で?」

拓将はオーサーの筈じゃ……

いや違う。まさか吹雪が……?

舞鈴達を殺したオーサーである拓将に復讐をしたってことか?

もしくは吹雪がやっぱりオーサーで……

……何故、俺は生きている?

嫌な仮説がたくさん押し寄せる。

お、俺が寝てる間に何があったんだよ?

修馬「……あ」

そこで見つける。
拓将の手の甲の1の数字。

修馬「1?……ははは、おいおい1って何だそりゃ。
拓将が1なら、2は……だ、誰なんだよ」

震える。

そんな………

逃げるように走り出す。

吹雪!吹雪は?吹雪はどこだ!!

修馬「吹雪!!どこだ?返事しろ!!おい!!」

ロッジ内を走り回り、喉が切れそうなほど叫びあげる。

ロッジの全ての部屋の扉を乱暴に開く。

机の下。
カーテンの裏。
クローゼット。

めちゃくちゃに走り回った。

吹雪……吹雪……

ロッジにはいないのか?

島中を探し回る勢いで、俺はロッジの外に飛び出た。

……そして俺は、吹雪を見つけた。